印刷 高速道路 1000円 機械仕掛けの林檎 悪い子 (カテゴリ:その他) 忍者ブログ
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 ギィが阿紫花を弄るだけの話。コメディ目指して暗くなった。
 ジョ阿紫ベースだけど、ギィ×阿紫花っぽい。
 
 サハラ後。
 

 悪い子


「一人にしてくれないか」
 ジョージの言葉に、阿紫花は動揺した。
 これまでさんざ侮蔑する言葉を吐かれてきたが、「一人にして」と言われたことは無かったからだ。
「さ--酒、飲みやしょうよ、ジョージ……」
 レミ・マルタンのバカラボトルを片手に、阿紫花は引きつった笑みを浮かべる。「折角イイ酒なんですぜ……」
「そんな気分ではない」
 ジョージは沈んでいる。語調こそ突き放すように喋っているが、世渡りになれた阿紫花にはすぐ分かる。ひどく気落ちしている。
 気持ちは分かる。阿紫花も、才賀貞義に裏切られた。
 その屈辱と怒りは、一時の慰めで治まるものではない。
「ジョージさん……あのよォ」
 酒飲んで酔っ払ってあたしと寝ちまいやしょ--とは、言い出せない。さすがにそこまで無神経ではない。
 人形しかいないフウの屋敷の客間で、ジョージはガレの琥珀色のランプに照らされている。ふかふかの猫足の椅子に深々と腰を下ろし、しかし安らぐどころかじっと前を睨みつけている姿は、--気の毒だ。
 ジョージは言った。
「……酒など、飲んでも酔わないぞ。私は」
「へ?」
「もうそんな体ではない。……しろがねと飲みたまえ。あの人形どもも、相手をしてくれる」
 メイド人形か。
「やなこった。あんなダッチワイフどもゴメンでさ。あたしゃねジョージ--」
 アンタと飲みてェ、と、素直に言ってやる気にはなれなかった。
「--腑抜けたツラしくさってるアンタじゃつまんねえ。ケッ……馬鹿馬鹿しい。いつものアンタはドコ行ったいんだよ、ええ?」
「……」
 応えがない事に阿紫花は嘆息した。
「一人で寝まさァ。おやすみなせェ、ジョージ」
「おやすみ。……」 
 黒檀のテーブルの上にブランデーの瓶を置き、阿紫花は出て行った。

(……あたしも、裏切られてへこんだっけな……)
 真っ暗な室内でシルクのシーツに包まり、阿紫花は思い出す。
 勝が天から降ってきて、増村にぶつかり--自分は助かった。
(あの時坊ちゃんがもし雇ってくれなけりゃ、あたしどうなってたかねえ……)
 獣の目。勝の目が強く輝いていた。その目に引きつけられた。
 勝の目は、阿紫花の中の「裏切りへの落胆」を「貞義への怒り」にすぐさま変えた。
(坊ちゃんに逢やいいんだ。ジョージも……)
 そんな事を思いながら、阿紫花は眠りに落ちた。

「さっさと起きたらどうだい、阿紫花!」
 陽光の白い光が、瞼の裏に入り込んで阿紫花は面食らった。目を閉じているのに明るい。
「う……何……ギィさん?」
「ああそうだ!ギィ・クリストフ・レッシュとは僕のことだ!早く起きたまえ!皆もう朝の食事が済んでいるぞ」
「ひゃっ」
 突然寝具が剥ぎ取られた。「ああ、いきなり、もう……」
 阿紫花はしぶしぶ目を開けた。
 不精して裸で寝ていたのが悪かった。黒手袋以外は、下着すら見に着けていない。足を曲げて寝ていたから、股間もかなり無防備だ。
 そんな阿紫花が目を開けて初めに見えたのは。
「細っ……」
 綺麗な顔に似合わないほど呆気に取られた、ギィの間の抜けた顔だった。
「君、そんなに細いのか」
「え?」
 何の事だ。
 見れば、ギィは自分のヘソの辺りを注視している。
「!」
「東洋人は細いと思っていたが……」
「ギ、ギィさん……あのなァ……」
 ナニの事を言われているのか、と阿紫花は怯む。
「日本人は特にそうなのか?小さいし……」
「な……」
「あ、でも鳴海は規格外か。あれがでかいのは特別なんだろうが……君は子どもの頃からそんななのか?」
「鳴海の兄さんのって、そんなに?(いやそうだろうがどこで見たんだ)……ガキの頃に比べりゃ、でかくなってまさぁ……」
 阿紫花は怒りよりも悲しみがこみ上げて仕方ない。
 ギィは気づかない様子で、
「そうだろうね。そうでなけりゃ困るだろう。色も薄いなあ。君、言われた事ないか?」
「タバコ吸っていいですかね?……」
 震える手でライターを持つが、阿紫花は動揺しなかなか火がつかない。
 本気で悲しくなってきた。
「本当に細いなあ、タバコは若い頃からかい?それのせいで成長が阻害されてないか?」
「~いい加減にしやがれ!他人様の体にアレコレ言いやがって」
 阿紫花が怒鳴ると、ギィは西洋人らしく肩をすくめ両手を肩の位置まで持ち上げ、
「ああ、悪かった悪かった。しかし久しぶりに見てね、こんな細い男の腰」
「久しぶりだかなんだか知らねーが……へ?」
「肉がないし骨が細いんだな。もう少し太った方がいいんじゃないか?人形を扱うにももう少し体格があった方が楽だろう」
 ギィの言葉に阿紫花は。
「……これは生まれつきでさ……」
 がっくりと項垂れた。

「起きやすよ……ったく」
 阿紫花は立ち上がり、床に落ちていたシャツに袖を通した。
 メイド人形がクリーニングしたスーツを着る前に、髭をあたりたい。
 無駄に広い客間に設えた化粧室の鏡の前に立つ。
 鏡に、阿紫花を見るギィが映っていた。
「……なんでさ」
 剃刀で髭を剃っている阿紫花を、ギィは鏡越しに見ているようだ。
 鏡の中のギィは少し首をかしげ、
「気にしないでくれ。--ベッドメイクをしてやろう。シャツもクローゼットから出してやるよ。……」
「……どうも」
 何となく不可解な気持ちで、阿紫花は鏡の中のギィの背中に礼を言った。

 --化粧室から阿紫花が出ると、整えられたベッドの上にスーツ一式が載っていた。姿見の鏡まで近くにある。
 靴まで磨かれている。ギィの仕業か。
 こんな短い時間によくここまでしたものだ。
「下着の場所だけ分からない」
「……トランクの中。自分でやりやすよ」
「ああ、いいいい。そんな格好で動き回られるくらいなら僕がやってやるよ」
 ならば出て行けよ--とは思うが、目の前を動き回る銀髪を見るのが愉しい。ギィはとびきりのハンサムだ。いっそ中性的なほどに整った姿が、目の前でトランクのキーに苦戦していたり、「君は荷物の整理が悪い」とブツブツ言うのを見るのも面白い。
 世界一級の人形だってこんなに美しくはないだろう。銀髪に銀目、白い肌に左右対称な顔--。
「君のパンツ、褌はないのか?」
 世界中の人間が羨む美貌が、阿紫花のパンツを手にそう言った。
 阿紫花は笑った。
「持ってきてねえなあ。今時褌ですかい?アンタ見た事あんの?」
「あるとも。身に付けた事もあるよ。替えがなくなって仕方なくさ」
「? 祭りにでも参加したんですかい?」
 阿紫花の純粋な問いにギィは少しだけ眉を曇らせた。
「……ずっと前にね」
「ふうん。ギィさんも、見た目より長生きんなんでしたっけ。……」
「……」

「……男の着替えなんぞ見て、愉しいですかい?」
 阿紫花は眉をしかめる。「あたしなら見たくねえなあ」
 ズボンとシャツをだらしなく身に着けただけの自分が、鏡に映っている。シャツのボタンは留めていない。
 全身が映る大きな鏡の奥で、ギィは椅子に腰を下ろして足を組んでいる。
「僕だって見たくない。普通の男の裸ならね」
 どういう意味だ。阿紫花が振り向こうとすると、ギィは立ち上がり近づいてくる。
「君には興味あるかな」
 阿紫花の体にぴったりと張り付くように、ギィの手が後ろから触れてくる。
「……ヒマしてんですねえ、おたくも」
 阿紫花が落ち着いているのは、ギィにまったく「そういう気配」がないからだ。鏡の中のギィの目には、性的な含みがない。
「身長は僕のが高いな」
「顔のでかさが一緒ってのは、人種の差を感じやすねえ。……ケツに当たるのがアンタの太ももってのがなあ……。足は長いに越したことねえのにな」
「足など長くて何になる?ベッドの中じゃ長いだけ無駄だ」
「はは……言うねえ、アンタも」
「それはどうも」
 ギィの手が阿紫花の胸に伸びる。
 そのまま後ろからシャツのボタンをはめていく。
 阿紫花は笑った。
「美人に給仕されんのは気分いいですぜ」
「僕はいつもはされる側だ。覚えておくといい」
「そいつはどうも。ここのメイドのおもちゃも綺麗な顔してやすが、アンタのが綺麗でやすねえ。あたしが知ってる人形は懸糸傀儡か和人形ですけどね。西洋人形って、あんたみたいな人間がモデルなんですかねえ」
「人形か。それもいいな」
 ギィは何故かそんな事を言った。「オリンピアが聞いたら喜ぶ。……君の人形みたいに見えるよ。阿紫花」
 鏡の中のギィの手が、阿紫花のネクタイを持っていた。
 細い布が阿紫花の首に巻きつく。
「僕が西洋人形なら、君は日本人形かな」
 ギィは器用に阿紫花のネクタイを締めていく。
 トラッドに二重に巻いた巻き方に、阿紫花はギィの人と成りを感じた。つくづく品がいい男だ。
「後はベルトか。……」
 カチャカチャと音をさせて、ギィがベルトをズボンの輪にはめ込んでいく。阿紫花は両腕を少し掲げているだけだ。
「……細いなあ」
 不意にギィの手が、シャツの下に入り込んだ。へその辺りを掴む。
「さすがに手で一周できるほどではないな」
「当たり前でやしょ……」
「もう少し手が大きければどうだろう」
「……」
 誰の事だ。「あんま触ンねえでくんな。くすぐってえ」
「それは失敬」
 そう言うが離れない。「東洋人の方がきれいな肌だと思わないか?」
「知りやせんよ。……しろがねって大概健康なんでしょーが。自分こそツルツルの顔して……」
 阿紫花の指先が、ギィの顔に触れる。「アンタの方が人形ぽい」
「君もだろう……」
「ン……」
 腰に触れる手がいささか執拗になってきた。「は……」
「良い子だから動くな。まだベルトを締めてない。……」
 ただ触りたいだけなのだろう。--阿紫花は思う。抱くとかそういうのではない。ただ触れてみたいだけ、そんな触れ方だ。
「……ホントは、こうしたい相手がいンでしょね、ギィさん」
 洋服を揃えたり着せてやったり。ままごとのように給仕してやりたい相手が、ギィにはいるのだろう。
「あんた、その代わりはいねえよ。ギィさん」
「……」
「それにあたし--『良い子』って言われるより……『悪い子』って言われる方が感じちまうんですよ」
 流し目をくれて、阿紫花はギィを見る。
 その言葉にギィは、にやりと笑った。
「悪い子だ……」
「ン……」
「いけない子だ、阿紫花……」
 言葉の間に執拗に触れてくる。
「……ン、」
「こんなに細くて、本当にジョージのアレが入るのか?こんな細い腰……壊れないのか、不安にならないのか、ジョージも」
 ずっとそんな事を考えて阿紫花を見ていたのだろう。
 阿紫花は苦笑した。
「そんくれえじゃねえと、満足しねえんですよ、あたしは……」
「なるほど。……本当に悪い子だ」
「はっ……あ、あ」
 首をひねり、無意識に唇を求めた。「ギィ……さ……」
「……」
 唇に触れる、その寸前で--。

 どか、と扉を蹴る音がして扉が開いた。
「おい!ジョージ!おい!」
 鳴海の大声がした。「蹴るな!……って、何してんだ、お前ら」
 扉を蹴破ったのはジョージだ。じっと、サングラスの奥から阿紫花とギィを見ている。
「……」
「--何、着せてやっていただけだよ。ぐずる子に服の着せるのは、何度やってもしんどいものだね。--ジョージ、続きは君に任せる」
 ギィは阿紫花から離れ、ジョージの肩を叩くと鳴海を伴って出て行った。「おい、何か変な空気じゃなかったか?」「そうか?気づかなかったなあ」という会話が廊下から聞こえる。

「……服を」
 ジョージが言った。「着るのだろう?」
「……ええ、まあ……」
 「いいトコだったのにな」という気持ちで、阿紫花は呟く。
「後は上を着るだけですがね……」
 自分の言葉に、ジョージはすぐ近くの上着を取ってくれるのかと思いきや。
「後で着せてやる」
 ベッドの脇に立っていた阿紫花の肩を押して、倒れこませた。
「ちょっ、……皺ンなるだろーが!」
「服などメイドに用意させろ。馬鹿が……。ギィのおもちゃになって、愉しいか?阿紫花」
 Oは耳までいいらしい。廊下からでも会話が聞こえていたのか。
「……ふて腐れてあたしの相手してくれねえ、どっかの誰かさんよかずっと可愛げのあるお人でしたよ、ギィの旦那は」
 ククク、と阿紫花は笑った。
 ジョージが怒っている。気持ちの整理がついたのか、それとも阿紫花に引っ掻き回されて怒りが勝ったのか。もう沈んではいない。
「……お前は本当に、……悪い子だ」
 そうでなけりゃ、--ー退屈でやしょ?
 阿紫花は薄く笑った。


 END
 
  
 
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