印刷 高速道路 1000円 機械仕掛けの林檎 習うより慣れろ 忍者ブログ
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 エレと鳴海と阿紫花とジョージ。コメディ。
 生き残りパラレル。黒賀村にて。

 習うより慣れろ

 恋する女は美しい--と、昔誰かが言ったが阿紫花は信じてはいなかった。気持ち一つで容姿が変われるなら苦労はない。それに色恋も泥沼ならば泥まみれのツラにしかならないからだ。男に殴られて目の周りを痣で染めて、それでも夜の街で生きる女なら山と見た。恋も愛もそりゃイイモノではあろうが、男に振り回されてそれでも幸せだと思い込んだブスッ面など、むしろ殴って捨てたい程嫌悪に駆られる。
 同属嫌悪だと気づいたのはついこの間ではあるけれど。

 黒賀村に帰ってきて数日。
 その日阿紫花は、離れで人形の手入れをしていた。
 新しくフウから与えられた人形を、阿紫花は気に入っているがギミックが多くて苦労している。しろがね専用の人形の複雑さだけはどうにも慣れない。技巧派を気取っていた阿紫花ではあるが、しろがねの世界ではそのテクもチャチなものだ。今なら分かる。もしギイのオリンピアを動かせと言われたら逃げ出したくなっているだろう。ギミックが多く、手数が多い人形の繰りは骨が折れる。
 「あるるかん」が練習用だというのは、すぐに体で理解できた。ギミックが少ない、パワーで勝負する人形だからだ。実践ではタイミングで勝負しなくてはいけないから、変にギミックの多いオリンピアに比べれば、これもまた操手を選ぶ人形という事になるだろうが、それでも操りやすい。隠し手や隠し武器の多い人形は、使いこなせなければパワータイプの人形に簡単に負ける。しろがねの集中力や体力がなければ、とてもではないが操りきれない。
 阿紫花の新しい人形は、操手である阿紫花には不釣合いなのだ。
 オリンピアのギミックと、あるるかんのパワー。そのどちらも兼ね備えた--といえば聞こえはいいが、要は真ん中取りだ。プラスもマイナスも減っている。人間である阿紫花だから、それくらいでちょうどいいだろうとフウもギイも言うが、阿紫花は釈然としない。操りやすいだけの人形に用はない。欲しいのは、戦場に立てるだけの人形だ。

「気に入らなければ、君が改造しろ。それはもう君のものだ」
 ギイは阿紫花の首に指を当て、
「君が好きにしろ。だが壊れたらそれで終わりだ。代わりはない。しろがねはそうなんだよ。自分の人形を壊してしまったら、後は自分の体の中の『生命の水』くらいしか武器がない」
 怖いほど冷たい顔で、ギイは阿紫花に釘を刺す。
「この人形が壊れたら、君も壊れる。それくらいの覚悟で操れ。出来なければ操り人形は諦めて、メイド人形でも作るんだな。そっちも人手はいつでも欲しいんだ。君みたいな人間でも、人形作りの腕があるから、戦場になど行かなくても生きて行ける」
 それじゃ意味がねえ、と笑った阿紫花にギイは、
「では意味ある生き方のために努力をしたまえ。君がどう思っているかは知らないが、僕は努力を笑ったりしない。この世には、天賦の才など存在しないからだ。努力だけが自分の力だ、阿紫花」
 努力したまえ。

 ……そう言われたので、阿紫花は自分なりに頑張ってはいる。
「でも、あたしただの人形使いでやすからね……。しろがねたちみてえに、知識まではそんなに持ってねえのになあ」
 夜の街の歩き方とか、女の落とし方ならよっく知っているが。
「白銀とかいう人の記憶がありゃ、ちっとはマシなんでしょうけどよ……」
 薄暗い離れの土間に人形を置き、阿紫花は首を傾げる。隅から隅まで、など、分かるはずがない。自分が作ったものではないし、阿紫花の知らない機能もあるかも知れない。
「……ま、何とか、しやすかね……」
 自分がこれまで見てきた人形の記憶なら、鮮明に残っている。抱いた女の股座以上にははっきりしている。
 よし、と、呟いて、阿紫花は人形の手入れを始めた。
 服を脱がせ、四肢の外側の殻を外し、中を確かめる。見た限りでは手足に異常はない。歯車も磨耗していないし、噛み合せも綺麗なものだ。糸を引っ張っても、キリリと綺麗な稼働音が聞こえるだけだ。感触も悪くない。
 胴体部分を開いた。
 その時、土間の入り口から声がした。
「すいません……誰か」
 聞き覚えのある澄んだ女の声だ。阿紫花は振り向く。
「あ?姐ちゃん」
「阿紫花……さん」
 エレオノールだ。袖の無い地味な白のハイネックTシャツにジーンズ、という格好だが、体の線の美しさが際立って見える。
 エレオノールが日仏混血と阿紫花は以前に知ったが、異人種の混血は時に純血の何倍も美しく見えるらしい。白人のバタ臭さも日本人の平坦さも見られない代わりに、彫りが深いのにどこかあどけなく若く見える。銀髪になって目立つのもあるだろうが、エレオノールは確かに生まれ付いて父母の長所を受け継いでいるようだ。
「さん付けなんぞ要りやせんよ。姐ちゃんにそう呼ばれっと、なんか痒ィや。前は男みてえにあたしを怒鳴りつけてたのによ」
「……」
「阿紫花、で構いやせんよ。懐かしく思えるくれえだ。ま、入って座ったらどうだい。ジョージならいねえよ」
「知ってる。サーカスの設営を、手伝ってくれているから」
「はは、鳴海兄さんと力仕事やらせるなら適任っすからねえ。あ、茶ならそこに缶あっから、適当に飲んで下せェ。冷えてねえけど」
 阿紫花は顎で転がっている缶を示し、エレオノールに背を向け、人形の調子を見る。話があってきたのなら、適当に話していくだろう。そう思った。
 エレオノールは離れを見回した。八畳ほどの土間の奥に、部屋が数室あるだけの離れだ。物置きめいて、物が多い。古いダンボール箱が並んでいたり、古書が並んでいたりして、子どもの秘密の遊び場としては最適だろう。誰がかつて使ったのか分からない、スポーツカーを模した古い足こぎ車が、エレオノールの足元に置いてあった。
 時の流れを感じ、エレオノールは他人の事ながらどこかで懐かしさを覚えた。きっと誰にでも、しろがねにも共通する--郷愁だ。
「--で?鳴海の兄さんと、ケンカでもしやしたかい」
「え?」
 エレオノールは阿紫花の背を見る。
 阿紫花は手を休めず、
「だってあんたがあたしに用があるワケねえもの。あるとしたら、この村にもサーカスにも関係ねえこった。しろがねの話ならギイさんのトコ行くだろうし、あんたの今の生活の中で、村ともサーカスとも関係ねえモンがあるとしたら、鳴海の兄さんとの男と女の話ぐれえっしょ」
「……」
「しかも多分、男の意見を聞きたいってトコじゃねえかい?--浮気でもされたかよ」
「いいえ!いいえ--でも、いっそそれなら、どれだけ……」
 そいつは穏やかじゃない。
 阿紫花は振り向いた。
 エレオノールは土間に立ち尽くし、耐えるように目を伏せている。
「……こっち座ンなせえよ」
 阿紫花は煙草を取り出し、自分の隣を示す。人形を間に挟むようにして、二人は上がり口に座り込んだ。
 プフー、と煙を吐いて阿紫花が問うた。
「で?何がどうしたってんで?」
「その……阿紫花」
 何故かエレオノールは真っ赤だ。
 その顔を見て、阿紫花は「随分可愛くなっちまいやがってなあ」と、記憶の中のキツイ顔のエレオノールを思い出す。今の顔の方が、断然親しみやすい。
「私は……その、魅力がないんだろうか」
「あ?」
「私を見て、……その、……だ、抱き、た、いとか」
 阿紫花は急いで周囲を見回した。ギイがもし聴いていたら、どんな目にあわせられるか分からない。
 まるでエレオノールが阿紫花にアプローチを仕掛けているような構図ではあるが、エレオノールは他意の無い顔で阿紫花を見ている。
「阿紫花?」
「(いねえ!良かった!)……や、こっちの事……。あの、なんでそんな風に思うんでさ」
「鳴海と、まだ、……ないのです」
 かあ~、と聞こえそうなほど、エレオノールの顔が赤くなる。とても可愛い。
 こりゃ手を出すなって方が酷だわ……、と阿紫花はヴィルマの気持ちを理解するが、実際に手を出したらどんな目に合うか。ジョージよりギイのが怖い。
「あんたら、あの列車で何日も二人きりだったんじゃねえか」
「あ、あんな時に何を……。それに鳴海はあの時、私を忘れていた……」
 記憶を失って、エレオノールの出生の秘密を曲解したために鳴海はエレオノールを憎んでいた。
「……私を思い出しても、鳴海はあの時、先がないからと私を突き放していた……」
「じゃあ今は好き勝手ヤリまくンなよ。いいね~若いって。何発でもヤりゃいいじゃねえか」
 イヒヒヒヒ、と中年男の顔で阿紫花が笑うが、エレオノールは顔を曇らせ、
「そ、そう、ですよね……男の人って」
「……あンですね。今のは立派な、セクハラっちゅーんじゃねえのかね」
「そうなのですか?」
 エレオノールは本気でそう問う。
 マジで経験無ぇのか、と阿紫花は心の中で目を丸くする。
 こりゃちっと世間擦れが必要だわ、と阿紫花は思い、
「言っときやすが、あたしただの中年男なんですぜ。あたしに相談していいんですかい?男も相手に出来るが女のが断然好きな、ヤクザ者だってお忘れじゃねえかい?前にあんたの服裂いてやったの忘れたかい……」 
 阿紫花は蛇のような目で見るが、エレオノールは怖じず、
「私は貴方よりずっと強い。貴方に襲われても、私は勝てる。それに貴方は、昔とは違う気がする」
「あたしの何を知ってるってんで?」
「目が、」
 優しくなった、と、エレオノールは言った。
「坊ちゃまを守ってくれた」
「……」
 信用してるって事か?それにしてもちと無防備すぎるとは思うが、--悪い気はしなかった。エレオノールのまっすぐな、しかし暖かい目の奥を見つめていると、確かに時の流れを実感できた。
 この娘も、以前は冷たい人形の目だった。
「……サーカスの女に聴きゃいいじゃねえっすか」
「ヴィルマは私に迫ってくるし、後の二人は子どもだから。村の女性たちに知り合いはいないし、……私は、他に友達がいない」
「……仕方ねえなあ」
 阿紫花は笑った。
「話だけでも、聴きやしょ……」
「ありがとう」
 エレオノールは、そう言って微笑んだ。
 
 歯車の手入れを、それぞれ左右に分かれて、阿紫花としろがねは行い始めた。話の合間に手が空くのは勿体ない、と阿紫花もしろがねも思ったのだ。
 それに何かしていた方が、しやすい話もある。
「避けられているわけではないと思う。鳴海は皆とも、打ち解けているし、私にもとても優しい」
 エレオノールは柔らかい布で歯車を優しく磨く。
「でも、皆が気を遣って二人きりにしてくれたり、……宿でも二人きりになるように部屋を割り振ってくれたり、してくれても、鳴海は……」
「何もしねえのかい」
 阿紫花は糸を調節しながら、胴体部の巻き込みに手を加えている。
「私を抱きしめて終わり。別々のベッドで寝るだけ」
「そりゃ勿体ねえな」
「そうなの。部屋代だって割高なはずなのに!」
「……(男としてアンタに手を出さないのは勿体ないって話)で、何も言って来ねえのかい、鳴海の兄さんは。普通男の方がヤリたがるもんなのにな」
「わ、私は別にそんな……」
「あ?女が誘ったっていいじゃねえか。それに、そんな事したってアンタが淫乱だとかってんじゃねえでしょ」
「い、淫ら……」
 絶句するエレオノールに、阿紫花は眉をしかめ、
「……言葉が悪かったなら謝りやすよ。話進まねえじゃねえか」
「……分かった。……私たちはしろがねだから、多分、人間よりはそういう欲望が少ないのだと思う。生殖能力も低い。過去に生まれたしろがねの子どもは私だけだと言うくらいだから。……鳴海も、もしかしたら……」
「……インポ?」
 今度は阿紫花が絶句した。それはない。しろがね-Oのジョージですらそういう欲求はあるし、機能もある。(充分すぎるほど)
 ギイですら、あれでなかなか遊んでいるのだ。
 だが男どものそんな顔など知らないエレオノールは、心配そうに、
「悩まないで言って欲しい……悩みがあるなら、分かち合いたい」
「いやそれは分かち合われても男としては切ないっつうか……、いや、ねえよ。無い無い。だってジョージだってあんな……」
「あんな?」
 ぱっ、とエレオノールが顔を上げる。
 もしかしたら、しろがねの性生活の情報が欲しくてジョージの連れである自分のところに来たのではないか、と、阿紫花は勘繰る。
「……少なくとも、あたしは満足してやすよ……」
「一ヶ月に何回するものなの!?一週間単位は?一日何回出来るのかしら?」
 エレオノールは彼女なりに必死な顔だ。こんな薄暗い二人きりの離れで、彼女にこんな風に迫られ、そんな性的な話題を振られても、阿紫花としては切ないばかりだ(主に股間が)。
「……それ、答えなきゃいけやせん?」
「是非!私は私たちの事がもっと知りたい。キュベロンじゃ教えてくれなかった」
 「学〇では教えれくれな〇事」とかいう番組だか本だかがあったなあ、と、阿紫花はうっすら思う。
「教えて、阿紫花。私と鳴海の未来のために!」
「あたしの羞恥心も思いやってくだせえよ……」
 そしてジョージの下半身事情も思いやって、と、阿紫花は項垂れた。

「ジョージ、お前さ……」
 テント設営の休憩中、何となく鳴海とジョージは離れた場所で二人だけで昼食を食べていた。鳴海は黒賀村婦人会の手作り弁当だが、ジョージは持参したパウチ入りの液体を飲むだけだ。
 ジョージは気づき、手にしていたパウチを差し出し、
「……お前も欲しいのか」
「何それ」
「サイボーグ用の高蛋白アミノ酸。ミネラル入り経口摂取タイプ。お前が飲んでも適合する」
「いらねえよ。……そんなの食って、満足すんのか?」
「食欲はない。空腹もない」
「ああそう。……」
「だが、たまに味が知りたくなるな。それが食欲なのかは忘れた」
「……消化できンなら、食ってもいいんじゃねえか?」
「阿紫花と一緒ならな。酒だけでカロリーを満たそうとする馬鹿に栄養を取らせようと思ったら、一緒に食べないと駄々をこねる。どうしようもないんだ、あいつは」
「……」
 ノロケじゃねーか、と、鳴海は言いたいが、ぐっとこらえ最後の一口を飲み込んだ。そして呟くように、隣のジョージに話しかけた。
「阿紫花さ……。痩せてるよな」
 ジョージは遠くを見たままだ。設営したテントの張り具合と、サーカスのメンバーに異常が無いか、惰性で確認しながら答えた。
「ああ、そうだな」
「腰、細いよな」
「まあ、男だからな」
「ケツ、小せえ、じゃん」
「……」
「お前の、入ンの?……」
「殴っていいか」
 ジョージは遠くを見たまま、
「本気で殴っていいか。いや、こんな時は確認を取るべきではない。殴る。殴らせろ」
「待てよ!」
「ボラがあればイリノイの決着をつける所だ。置いてきたから私の拳で勘弁してやる。殴らせろ」
「は、話が終わったら殴らせるって!話を聞けって」
「……何の話だ」
 やっとジョージが振り向いて鳴海を見る。
 鳴海は赤い顔で、
「……その、あのな。お前、女とやった事ある?」
「ノーコメントだ」
「……初めてって、困んなかった?」
「……何に」
「全然違ェじゃん!体の大きさが!女って大概小さくて細くてよォ、……その、悩ンでんだ。大きさで」
 鳴海は真剣な顔で遠くの山々を睨んだ。
 ジョージは機能停止の顔でそれを眺めている。
 鳴海は必死な顔で、
「あんな細い腰なんだぞ!?ケツだって、全然俺より小せえし!それに俺--結構、デカいんだ」
「お前は何の情報を私から引き出したいんだ?」
「だから!入るか、って事!お前だって体でけえじゃん、阿紫花は、そりゃそんなに小さくはないけど、細いしよ。体格に差があるだろ。だから、その、……初めてで失敗とかしなかったのか、と思って」
「……なるほど。自分が失敗するのが怖いから、参考の体験談が欲しいのか。最初からそう言え」
「え、言ってたじゃん……話の流れとかで分かンねえ?普通」
「結論から話せ、面倒な男だな」
「お前はもう少し人の気持ちを察してもいいと思うぞ……」
「結論から言うと、お前はアホだ」
 んだとぉ!と鳴海がいきり立つ。ジョージは顔色を変えず、
「私はそういったプライベートを他人に話したくない。だが、言わせて貰うなら、私と話すよりエレオノールにそう伝えるべきだという事だ」
「出来ンならやってるって……」
「加えて言うなら、成人女性の体はその行為に及べるよう出来ている」
「……なんか、マジメな言葉で喋ったほうが卑猥だな」
「ではこう言えと言うのか。セックスなんかやれば出来るものだ。いくらデカくても、やろうと思えば出来る。大体、そんなにデカいのか?エレオノールにベッドで鼻で笑われて終わりじゃないのか?」
「ジョージ、テメエ……しろがねはそんな女じゃねえよ!」
「私はお前のパートナーをけなす事はしない。お前と違ってな。人のパートナーの身体について、最初にアレコレ言うからだ。不愉快な」
 尻が小さいとか、腰が細い、とかか。
 鳴海は気づいて身を縮める。
「……そりゃ、……でも言い出すキッカケ、つうか」
「エレオノールもしろがねだ。さっきお前が言ったな。だから言うが、傷はすぐ塞がる」
「は?」
「だから、……裂けても、塞がるだろう」
 今度は鳴海が絶句した。
 ジョージは心配そうに、
「ヘタそうだからな。お前は」
「ど、どどどど!どんだけだと思ってんだ!テメエは!いくら俺だって、いくら初めてだって、そんな無茶あるか!」
「ならいいんだがな。エレオノールが気の毒だ」
 ジョージがそう呟いた瞬間。
 背後に陰が立った。
「……エレオノールが、どうかしたかい」
 「黒賀村公民館」と書かれた薬缶を持ったギイが、立っていた。
 お茶を持ってきてくれたのだ。
「ギ、ギイ」
「いつから……」
 ギイは白磁の肌をさらに白く青くさせている。
「やれば出来るとか、サイズがどうとか……、君たちは、こんな太陽の下で誰の事を話していたんだい……?」
 ゆらりとギイの陰が揺れる。
 鳴海とジョージは青ざめ、
「ま、待て、落ち着け」
「私はただ経験の薄いコイツに相談されて--」
 弁解も遅かった。
 エレオノールの父親役と兄役を請け負っていた男は、怒りで色をなくした顔で、手術用のメスを両手に十本も持ち出し。
 黒髪と機械の体のしろがねたちを追い掛け回した。
「あ、いい腕してんじゃん、あのハンサムガイ」
 周囲の人間が「また何か面倒事が」と引く中、ヴィルマだけが感心していた。

「……なるほど、男性の機能に、問題はないはずなのですね。しろがねでも。一般の男性と比べても、遜色ないのですか」
 ふむふむ、とマジメに頷くエレオノールの前で、阿紫花は「すいやせん、ジョージさん、ギイさん」と、項垂れている。ほとんどはジョージの話だが、機械の体では参考にならないかも、と、ギイの事まで持ち出してしまった。
「……お役に立てやして?」
「はい!ありがとう。これで鳴海に、少し聞いてみます。もし体に何か不具合があっての事なら、やっぱり私も協力すべきですから」
 根がマジメなエレオノールは、そう決意して拳を固める。
 男である阿紫花としては「ほっといてもらった方が精神的に楽なんじゃねえかなあ」とは思うが、当人たちの問題だ。口出しすべきではない。
 エレオノールは何気なく、
「しろがねの男性と暮らす人間の女性はいたはずですものね。ルシール先生のように、人間の男性とお付き合いしていたしろがねの女性もいたし……愛があれば、きっと、乗り越えられるはずです」
「……」
「私はもう成果は求めない。ただ鳴海が悩んでいる事の一部でも、知る手がかりが欲しかった」
 エレオノールは呟き、
「ありがとう、阿紫花。鳴海に、ぶつかってみます」
 --ああ、綺麗な顔だなあ。
 エレオノールの顔を見つめ、阿紫花はそう思った。
「恋する女の顔も、悪くないモンでやすねえ」
「え?」
「自分と相手次第って事なんですねえ、何事もさ」
 阿紫花は煙草の煙を吐き、人形を見下ろした。
「こいつとじゃねえと歯車が噛み合わねえ--てなモンさ、色恋てのは」
 あんた綺麗になりやしたねえ、と、阿紫花はエレオノールに言った。

「ギイのしょげ返った顔など、初めて見た」
 ジョージは帰ってきてそう言った。
「エレオノールが一言言っただけで、まるで捨て犬のような顔になったよ」
 ギイに追いかけられる鳴海とジョージを見つけ、サーカスに戻ってきたエレオノールは、
『鳴海と私の事に、ギイ先生は口を出さないで下さい!』
 そう怒鳴って、ギイを叱り飛ばしたという。
「ギイめ、いいザマだ」
 それを聴きながら、布団に寝転がり、土間の人形を眺めながら、阿紫花は呟く。
「今夜は、姐ちゃんと鳴海の兄さん、出かけるとか言ってたかい?……」
「さあ?だったら何なんだ?」
「……いんえ、別に」
 後は当人たちの問題だ。そもそも阿紫花もジョージも、彼らの問題に巻き込まれるべきではなかったのだし。
「明日ギイさんを、慰めに行きやすかね……」
 阿紫花は呟いて、煙草を灰皿に押し付けて布団を被った。
 

 END

 エレオノール大胆すぎるだろ。
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