[1]
[2]
生き残りパラレル。ジョアシ18禁。
酒を飲んで阿紫花に絡むヴィルマ。
酒を飲んで阿紫花に絡むヴィルマ。
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世はなべて事もなし
酒に強い女だ。
ヴィルマを見ていると、夜の街で多くの女を見てきた阿紫花でさえそう思う。度の強いウィスキーやブランデーをストレートで、あるいはロックで浴びるように飲んでも、頬を上気させた程度でぴんしゃんとしている。
フウの屋敷の一室で何となく飲み始めたはいいが、酒に強い人間が二人だとそうそう飲み終えられぬもので、阿紫花もヴィルマもだらだらと飲み続けている。
二人とも大分楽な格好だ。阿紫花は寝巻きだし、ヴィルマはバスローブにガウンを羽織っただけだ。ヴィルマは裸で寝る主義だと言うので、阿紫花はちらりと見える胸元や太ももを楽しんでニヤけている。
「あ~あ、気持ちいい」
豊かな胸を揺らし、ヴィルマはブランデーグラスを傾けて阿紫花を見る。
ニヤニヤと、よだれすら流しそうな顔でそれを見ていた阿紫花は、
「誘ってんのかい」
「いいよ、別に。でもアタシあんた相手だったらタチだからね」
「げ。あんた相手でもケツ掘られんのはちょっとなあ……」
「いいじゃん。--ねえ」
ヴィルマは阿紫花の胸ポケットのタバコを取り、
「あんたらいっつもどんなセックスすんの?教えてよ」
「火、使いやす?」
「ン。ありがと」
「どんなって、ねえ。普通」
阿紫花はヴィルマの咥えたタバコに火をつけてやり、自分も一本咥え、
「普通でさ」
「どこの世界に男にケツ掘られて普通って言い切る男がいんのよ。チェッ、あんたやっぱりネコじゃないの。上に載られると興奮すンでしょ」
「あんただってあたしの上載ったけど、あの時はあたしのサオ使ったじゃねーか」
「違うね。確かにあんたのペニス入れたけどさ。あんた反応が女なんだもん。顔とか体じゃないよ、女とか男ってのは。感じ方とか気持ちいいって声の出し方とか、そういう部分がどっか女なんだもん。だからアタシもその気になっただけだよ。アタシ男興味ないからね」
「その割にゃ、慣れた感じでしたけどね」
「慣れた方が楽な事だってあンだろ。分かンでしょ」
「……そーでやすね」
吐き捨てるように言ったヴィルマに、阿紫花は苦笑する。
ヴィルマはタバコの煙を吐き出し、
「普通の男なんかどうでもいいよ。気持ち悪い。でもあんた可愛かったよ。腹の傷開いたままだってのに、どうしてもやりたいって言うからアタマおかしくなってんのかと思ったけど。男の生理ってな不思議だね。死にかけた方が勃つなんて」
「いや別にそれだけじゃねえけど……たまたまでさ。あんた居たし、あんた胸見えるような格好でこっち来ンだもの。そりゃヤりたくなンでしょ」
「そういう事にしといてやるよ。……ねえ、またしてみる?ベッドにあんた括りつけてさ。腹切ったみたいに縛り付けて……アタシ上でいいよ」
キスするように顔を近づけ、ヴィルマは阿紫花に囁く。
「マジで言ってやす?」
「ちょっと締め付けただけで首のけぞらせちゃってさ……、指入れてかき回しただけでイキかけンだもん。すっごく興奮した」
阿紫花の頬に唇を寄せ、
「前より肌のツヤいいね。いいセックスしてそう」
「姐さん、酔ってやすねえ」
ククク、と阿紫花は笑う。女に露骨なセックスジョークを言われるのは嫌いじゃない。ましてやこんなボインな外人に迫られるのも悪くない。
「酔ってないよ……。ねえ、もし、さ」
「へえ?」
「あんたの男が死んで、アタシらだけ生き残ってたら、アンタ、あたしの男になってたと思う?」
「……」
阿紫花は黙る。そして笑った。
「アンタ、あたしと死んでくれっかい?」
「……何それ」
「アンタ弟のためには死ねても、あたしのためには死ねねえだろ。だからさ」
「……馬鹿だね。男ってのは」
ヴィルマは怒ったように、
「じゃあアンタ、あの銀髪のために死ねるのかい」
「さあ?死んだことねーから分からねえ」
「なんだい、適当な事ばっか言っちゃって。犯すよ、あんま人をからかうと」
「やれンならやってみろってんだ」
一瞬。阿紫花は「しまった」と凍りつく。
どたばたと騒ぐ音に、廊下を通りかかったジョージとギイは気づき眉をしかめた。
阿紫花の部屋だ。
ギイは何気なく、
「開けてみるか?マドモワゼルが一緒だったが、何かケンカになっているのかも知れない」
「ケンカ?まったく、子どもでもあるまいし。おい、何を騒いで--」
ろくにノックもせずにドアを開け、ジョージは凍りついた。
「ジョ、ジョージ、さん」
うつぶせにベッドに押し倒された阿紫花が凍りついた声を上げる。
四つん這いで尻を上げさせられ、その尻に瓶の口を刺されて青ざめている。
細身だが尻や胸の重みでヴィルマは阿紫花に圧し掛かり、ガウンのベルトで阿紫花の両手首を背中で縛り上げていた。
乱れて胸や下腹部があらわになっていると言うのに、ヴィルマは平然と、
「生意気言うんじゃないよ、スキニーボーイ。マジで犯しちゃうよ?」
「や--やめないか!」
ジョージは赤面と蒼白が入り混じったおかしな顔色で、声を張り上げる。
ヴィルマはジョージを見て、ばさっ、と着衣を適当に直し、
「ああ?--チッ、全部アンタのせいだからね」
「は?」
「もういいよ。ったく、--分かっただろ子猫ちゃん、アタシからかうと、アンタなんてすぐにこうだよ。彼氏の前で犯しちゃうから」
ひぃ、と阿紫花が息を呑む。
「フン、だ。もう寝るよ。続きやるなら譲るよ」
事情が飲み込めないのと、慣れないものを見た事と、倫理観の反発とでジョージは絶句している。
「おい、何かあったのか?と、廊下の先を歩いていたギイが近づいてくる足音がする。
ヴィルマは瓶を引き抜こうともせず、ただ手を離して立ち上がると、ジョージの隣を通って出て行った。ギイと何か話している。飲みなおす約束でもしているのか。
「……ジョ、ジさん」
阿紫花は赤い顔で訴える。縛られたせいで、手が使えないのだ。
「抜いて……あのアマ、酒がちっと残ってンのに、入れやがって」
勿体ねえ真似しやがって、と、阿紫花は赤い顔で呟く。
「助け……」
「……」
カチャ、と。
後ろ手でジョージはドアに鍵を掛けた。阿紫花はそれに気づかない。
「早く抜い……中に、入って熱くなって……流れて、来……」
「ああ。……」
ジョージの手が、瓶の底を掴む。抜こうとはせず、
「……どんな、感じだ?……」
「熱いンでさ!やべえ、マジで目が回りそ……」
阿紫花は助けてもらいたい一身で言うのだが。
「こうしたら?……」
「ひぃっ……あ、ジョージ!?」
瓶の底を掴まれて、上下左右に揺らされて阿紫花は息を呑む。
「ッ、何しやがんだ!ひっ、やめ、嫌っ」
「すっかり柔らかくなっているな。酒のせいか?……」
「知るかよ!ちょっ、抜け!抜いて……!」
「どこまで入るかな……」
「は!?ふざッけんな!」
「なんだか、さっきよりうるさいな」
ギイは廊下を歩きながら傍らのヴィルマに、
「そう思わないか、マドモワゼル」
「仲良くやってんでしょ。フン。こんな美女がいるのに男同士で乳繰り合ってさ。せっかくイイ感じの男見つけたと思ったらこうだよ」
「それは残念だな。--どうだろう?マドモワゼル」
「は?」
「私も淋しい男なのですよ。……」
きらきらした顔でギイは言うが、ヴィルマは肩をすくめ、
「ゴメン。好みじゃない。アタシ、女かスキニーボーイみたいなバイしか相手にしない」
「……」
「あ、あ、馬鹿っ、馬鹿ぁ……っ」
「ああ、馬鹿で結構だよ。お前だってこんな事になって、馬鹿じゃないか?尻に瓶突っ込まれて、掻き回されて」
とは言うが、今は瓶などない。瓶なら床に放られている。
「誰があんたの瓶突っ込めった!?っ、」
泣きが入った顔で、縛られたまま阿紫花は貫かれている。さんざ言葉で攻められた上に、酒が入ったままの其処に生のペニスを突き立てられ、息も絶え絶えになっている。
「いつもより柔らかい。酒のせいか?」「中でどうなっている?」「瓶とどっちがいい?」などと囁かれ、涙顔で逃げ出そうとするのだが、縛られた上に酒が入っているので動けない。快感はあるのにアタマがグラグラしてよく分からない。
「ダメ、イク……ッ、ウ」
「ああ、好きにしろ」
「あ、あああっ……」
--散々な目に合って、阿紫花は数時間後に解放されたのだが。
翌朝。
「オハヨ、スキニーボーイ。うわ、目の下クマすごいよ」
「ヒッ」
ヴィルマの顔を見た途端に、ドアの陰に隠れてしまった。
「はあ?何してるのよ……」
「……しばらく、酒も女も、やめときやす」
「……どんだけ昨日いじめられたのよ。アンタ、あの銀髪ロボにどんなセックス強要されてんの?大丈夫?」
「テメエのせいじゃねえか……」
恨み顔で阿紫花はヴィルマを睨んだ。
END
酒に強い女だ。
ヴィルマを見ていると、夜の街で多くの女を見てきた阿紫花でさえそう思う。度の強いウィスキーやブランデーをストレートで、あるいはロックで浴びるように飲んでも、頬を上気させた程度でぴんしゃんとしている。
フウの屋敷の一室で何となく飲み始めたはいいが、酒に強い人間が二人だとそうそう飲み終えられぬもので、阿紫花もヴィルマもだらだらと飲み続けている。
二人とも大分楽な格好だ。阿紫花は寝巻きだし、ヴィルマはバスローブにガウンを羽織っただけだ。ヴィルマは裸で寝る主義だと言うので、阿紫花はちらりと見える胸元や太ももを楽しんでニヤけている。
「あ~あ、気持ちいい」
豊かな胸を揺らし、ヴィルマはブランデーグラスを傾けて阿紫花を見る。
ニヤニヤと、よだれすら流しそうな顔でそれを見ていた阿紫花は、
「誘ってんのかい」
「いいよ、別に。でもアタシあんた相手だったらタチだからね」
「げ。あんた相手でもケツ掘られんのはちょっとなあ……」
「いいじゃん。--ねえ」
ヴィルマは阿紫花の胸ポケットのタバコを取り、
「あんたらいっつもどんなセックスすんの?教えてよ」
「火、使いやす?」
「ン。ありがと」
「どんなって、ねえ。普通」
阿紫花はヴィルマの咥えたタバコに火をつけてやり、自分も一本咥え、
「普通でさ」
「どこの世界に男にケツ掘られて普通って言い切る男がいんのよ。チェッ、あんたやっぱりネコじゃないの。上に載られると興奮すンでしょ」
「あんただってあたしの上載ったけど、あの時はあたしのサオ使ったじゃねーか」
「違うね。確かにあんたのペニス入れたけどさ。あんた反応が女なんだもん。顔とか体じゃないよ、女とか男ってのは。感じ方とか気持ちいいって声の出し方とか、そういう部分がどっか女なんだもん。だからアタシもその気になっただけだよ。アタシ男興味ないからね」
「その割にゃ、慣れた感じでしたけどね」
「慣れた方が楽な事だってあンだろ。分かンでしょ」
「……そーでやすね」
吐き捨てるように言ったヴィルマに、阿紫花は苦笑する。
ヴィルマはタバコの煙を吐き出し、
「普通の男なんかどうでもいいよ。気持ち悪い。でもあんた可愛かったよ。腹の傷開いたままだってのに、どうしてもやりたいって言うからアタマおかしくなってんのかと思ったけど。男の生理ってな不思議だね。死にかけた方が勃つなんて」
「いや別にそれだけじゃねえけど……たまたまでさ。あんた居たし、あんた胸見えるような格好でこっち来ンだもの。そりゃヤりたくなンでしょ」
「そういう事にしといてやるよ。……ねえ、またしてみる?ベッドにあんた括りつけてさ。腹切ったみたいに縛り付けて……アタシ上でいいよ」
キスするように顔を近づけ、ヴィルマは阿紫花に囁く。
「マジで言ってやす?」
「ちょっと締め付けただけで首のけぞらせちゃってさ……、指入れてかき回しただけでイキかけンだもん。すっごく興奮した」
阿紫花の頬に唇を寄せ、
「前より肌のツヤいいね。いいセックスしてそう」
「姐さん、酔ってやすねえ」
ククク、と阿紫花は笑う。女に露骨なセックスジョークを言われるのは嫌いじゃない。ましてやこんなボインな外人に迫られるのも悪くない。
「酔ってないよ……。ねえ、もし、さ」
「へえ?」
「あんたの男が死んで、アタシらだけ生き残ってたら、アンタ、あたしの男になってたと思う?」
「……」
阿紫花は黙る。そして笑った。
「アンタ、あたしと死んでくれっかい?」
「……何それ」
「アンタ弟のためには死ねても、あたしのためには死ねねえだろ。だからさ」
「……馬鹿だね。男ってのは」
ヴィルマは怒ったように、
「じゃあアンタ、あの銀髪のために死ねるのかい」
「さあ?死んだことねーから分からねえ」
「なんだい、適当な事ばっか言っちゃって。犯すよ、あんま人をからかうと」
「やれンならやってみろってんだ」
一瞬。阿紫花は「しまった」と凍りつく。
どたばたと騒ぐ音に、廊下を通りかかったジョージとギイは気づき眉をしかめた。
阿紫花の部屋だ。
ギイは何気なく、
「開けてみるか?マドモワゼルが一緒だったが、何かケンカになっているのかも知れない」
「ケンカ?まったく、子どもでもあるまいし。おい、何を騒いで--」
ろくにノックもせずにドアを開け、ジョージは凍りついた。
「ジョ、ジョージ、さん」
うつぶせにベッドに押し倒された阿紫花が凍りついた声を上げる。
四つん這いで尻を上げさせられ、その尻に瓶の口を刺されて青ざめている。
細身だが尻や胸の重みでヴィルマは阿紫花に圧し掛かり、ガウンのベルトで阿紫花の両手首を背中で縛り上げていた。
乱れて胸や下腹部があらわになっていると言うのに、ヴィルマは平然と、
「生意気言うんじゃないよ、スキニーボーイ。マジで犯しちゃうよ?」
「や--やめないか!」
ジョージは赤面と蒼白が入り混じったおかしな顔色で、声を張り上げる。
ヴィルマはジョージを見て、ばさっ、と着衣を適当に直し、
「ああ?--チッ、全部アンタのせいだからね」
「は?」
「もういいよ。ったく、--分かっただろ子猫ちゃん、アタシからかうと、アンタなんてすぐにこうだよ。彼氏の前で犯しちゃうから」
ひぃ、と阿紫花が息を呑む。
「フン、だ。もう寝るよ。続きやるなら譲るよ」
事情が飲み込めないのと、慣れないものを見た事と、倫理観の反発とでジョージは絶句している。
「おい、何かあったのか?と、廊下の先を歩いていたギイが近づいてくる足音がする。
ヴィルマは瓶を引き抜こうともせず、ただ手を離して立ち上がると、ジョージの隣を通って出て行った。ギイと何か話している。飲みなおす約束でもしているのか。
「……ジョ、ジさん」
阿紫花は赤い顔で訴える。縛られたせいで、手が使えないのだ。
「抜いて……あのアマ、酒がちっと残ってンのに、入れやがって」
勿体ねえ真似しやがって、と、阿紫花は赤い顔で呟く。
「助け……」
「……」
カチャ、と。
後ろ手でジョージはドアに鍵を掛けた。阿紫花はそれに気づかない。
「早く抜い……中に、入って熱くなって……流れて、来……」
「ああ。……」
ジョージの手が、瓶の底を掴む。抜こうとはせず、
「……どんな、感じだ?……」
「熱いンでさ!やべえ、マジで目が回りそ……」
阿紫花は助けてもらいたい一身で言うのだが。
「こうしたら?……」
「ひぃっ……あ、ジョージ!?」
瓶の底を掴まれて、上下左右に揺らされて阿紫花は息を呑む。
「ッ、何しやがんだ!ひっ、やめ、嫌っ」
「すっかり柔らかくなっているな。酒のせいか?……」
「知るかよ!ちょっ、抜け!抜いて……!」
「どこまで入るかな……」
「は!?ふざッけんな!」
「なんだか、さっきよりうるさいな」
ギイは廊下を歩きながら傍らのヴィルマに、
「そう思わないか、マドモワゼル」
「仲良くやってんでしょ。フン。こんな美女がいるのに男同士で乳繰り合ってさ。せっかくイイ感じの男見つけたと思ったらこうだよ」
「それは残念だな。--どうだろう?マドモワゼル」
「は?」
「私も淋しい男なのですよ。……」
きらきらした顔でギイは言うが、ヴィルマは肩をすくめ、
「ゴメン。好みじゃない。アタシ、女かスキニーボーイみたいなバイしか相手にしない」
「……」
「あ、あ、馬鹿っ、馬鹿ぁ……っ」
「ああ、馬鹿で結構だよ。お前だってこんな事になって、馬鹿じゃないか?尻に瓶突っ込まれて、掻き回されて」
とは言うが、今は瓶などない。瓶なら床に放られている。
「誰があんたの瓶突っ込めった!?っ、」
泣きが入った顔で、縛られたまま阿紫花は貫かれている。さんざ言葉で攻められた上に、酒が入ったままの其処に生のペニスを突き立てられ、息も絶え絶えになっている。
「いつもより柔らかい。酒のせいか?」「中でどうなっている?」「瓶とどっちがいい?」などと囁かれ、涙顔で逃げ出そうとするのだが、縛られた上に酒が入っているので動けない。快感はあるのにアタマがグラグラしてよく分からない。
「ダメ、イク……ッ、ウ」
「ああ、好きにしろ」
「あ、あああっ……」
--散々な目に合って、阿紫花は数時間後に解放されたのだが。
翌朝。
「オハヨ、スキニーボーイ。うわ、目の下クマすごいよ」
「ヒッ」
ヴィルマの顔を見た途端に、ドアの陰に隠れてしまった。
「はあ?何してるのよ……」
「……しばらく、酒も女も、やめときやす」
「……どんだけ昨日いじめられたのよ。アンタ、あの銀髪ロボにどんなセックス強要されてんの?大丈夫?」
「テメエのせいじゃねえか……」
恨み顔で阿紫花はヴィルマを睨んだ。
END
生き残りパラレル。
ロンドンでジョージを待ってる阿紫花の話。
はい、少女漫画。(?)
ロンドンでジョージを待ってる阿紫花の話。
はい、少女漫画。(?)
一撃で終わる
日本に帰るのも面倒だし(組関係への義理立てやら、村への挨拶やら)、ロンドンもなかなか面白いようで、阿紫花はフウの屋敷に留まっていた。別に居てくれと言われたのでもないし、居たいと言ったワケでもない。ただ宿代が浮くのと、人形があるから屋敷に居ただけだ。
自動人形の組み方を眺めているのも面白い。フウは文書や書籍でその知識を残すつもりはないらしく、それだけが不便だったが阿紫花は慣れた。もとより人形遣いに教科書などないし、黒賀村でもそれは同じ。見て覚える、技は盗む、習うより慣れろ。
世間などどうでもいいくせに、基本的な部分で職人気質な所で気があった。
「メカニックがいると、あたしも楽だよ」
フウは紅茶を啜り、手元のテーブルの上に極細の電極針を置いた。針金の先に髪の毛ほどの針が点いた、電極だ。
自動人形を作る工房の中だ。現代的で、無機質な機械類が並んでいる。フウの自動人形は思考と内部こそ無機質だが、有機的な身体は人間の質感を保持させている。使い勝手を謝れば変質も腐敗もする有機素材を組み立てるには、人間に施す以上に精密で繊細な作業が必要になるらしい。周囲の機械類はどれも浸透圧や体液循環、皮膚触感保持といったものばかりだ。
「ああ、ギイさんもジョージもいやすね」
熱心に人形の頭蓋殻のチタンを磨いていた阿紫花は、それをライトに透かす。
「美人にしてやりやすよ、っと……」
「君も悪くない腕だと思うよ、あたしは。根気はないが集中力もあるし、何より興味があるんだろう?人形に」
「あ~、そりゃね。昔から歯車とか見るのは好きですがね。でも正直、綺麗なだけのオネエチャン人形にゃ興味ねえな。人間に近づけるってのもどうでもいいし。あたしが好きなのは、ドンパチ出来る人形くらいでさ」
阿紫花はタバコの灰を灰皿に落とし、
「メイド人形たちもドンパチは出来ンでしょうけど、あたしが操るって類のモンじゃねえ。そいつがちょいとね」
「そうかい。--ああ、もう昼だ。昼食は?」
「あたしはもうちっと、こいつら見てやりやすよ。こっちの人に合わせて食事してたら、あっという間に体重が二倍くらいになっちまう。あの朝飯だけで一日腹いっぱいでさ。たいしてうまくもねえ飯--こりゃ失礼。この屋敷の主に言うこっちゃねえや。よく太りやせんね、フウさん」
「君が不健康なんだよ、阿紫花君。酒を夕食にする癖はもうやめた方がいい。ジョージ君にあたしが叱られる」
フウは面白くも無いその冗談に笑い、
「たまには日本食も出すように言ってみるかね」
「鍋食いたい」
「鍋?そんな硬いものを?」
「……」
「鍋、というのは日本の煮込み料理だよ。大き目の土鍋や金属鍋に、肉や魚や野菜といったその時々の具材を入れて、だし汁で煮る。ポトフみたいな感じだったかな。一般家庭や飲食店では、個別に振舞われるのではなく、鍋を卓の中心に置いてそれぞれ好きに取り分けたり箸でつついて食べるのは普通だ」
カフェ・オ・レをボールで飲み、ギイはそう説明した。
向かいで旗の立ったオムレツを食べていたフウが目を丸くし、
「鍋一杯に作るのかい。量的に考えても、一人じゃ食べられない食事って事かい?しかも大人数で一つの鍋に手を伸ばすって、……それはフォンデュみたいに軽食なのかい?」
「いや、菓子に応用できるフォンデュとは違う。日本のスモウレスラーの食事にもされるようなボリュームのあるケースもある。魚の内臓を主に使ったり、根菜を用いたものも」
ギイの説明に、フウはますます食欲が失せるように、
「日本の料理ってのは何とも不可思議だね」
「ロンドンにも和食レストランはあるだろう。シェフを一度呼んでみたらどうだい。阿紫花なぞより余程マシな日本人が作ってくれるはずだ」
「そうだねえ……ジョージ君が帰ってきたら考えてみよう」
人形の残党もまずいない現在ではあるが、今は逆に人間が、人形のデータを求めて暗躍している。軍事的な利用価値を考えると、無理も無い。
「軍人崩れのインテリマフィアを相手にさせるなら、ジョージは向いているだろう。対人歩兵やスカッドが通用しない体なんだし、そういう仕事が向いているんだろうな。だが僕は芸術家と軍力の繋がりについてはヒトラーの前例もあるから危険視している。アーティズムと戦争が結びつくのは最悪だ」
「大丈夫さ、彼のピアノ好きは子ども向けだ。それに軍隊には楽隊がいないとね。……」
当のジョージはこの時アラブの砂漠で自動人形を改造したオイルダラーの私設軍隊と交戦中だったが、それは置いといて。
「それにしても、阿紫花君だ。大人数で食べる食事を要求したんだ。……もしかして、淋しいのかね」
「ジョージがいないからか?まさか。ブリクストンの怪しげなバーに毎週出入りしてるよ。アイリッシュウィスキーと緑の目の金髪を口説くのに夢中さ。ちょっと前まではハックニーのバーだったがね」
日本人ならベルサイズやカムデンへ行けと言うんだ、とギイが呆れるのも「まあまあ」とフウはなだめ、
「それにしても大人しくしていると思わないかね。てっきり、人形に夢中なのかと思ったが、そうでもない。仕事の覚えも早いし、日本人だね、細かい仕事もきちんとこなす。しかし--さほど情熱的でもないね。そういう子なのかも知れないが」
「阿紫花はいつだって冷めてるように見えるよ。口先だけ笑っている。--だがジョージとイリノイへ向かった前後は割りと楽しそうだったように見えたんだがな。ジョージをからかっている内は本人も楽しそうだ」
「……長距離移動ヘリを出すから、早く戻らせるか。なんかねえ、見ていて少し切ないんだよ」
「NATOの音速機を借りた方が早い。それに阿紫花のそういう部分は、ただの女たらしのテクニックだ。騙されない方がいい」
ギイは手厳しく人差し指を出し、
「あれはそうやって男も女もたらし込んでいささかの罪悪も覚えない人間だ。気をつけたまえ。気がついたら養子縁組や遺産相続の書類にサインしているかも知れないぞ」
「面白いね、そいつは稀代の悪女、いやドン・ファンだ」
「ドン・ファンはストレートだったよ。女専門だ。ま、阿紫花は今の所待つ身を楽しんでいるから、世界の財の3分の一は守られるだろうがね」
「もしそうなったら世界経済の危機すら阿紫花君のせいかい?それは笑えるね」
「ジョージに頑張ってもらわないとなあ。世界の平和はあのカタブツにかかっているんだね」
……当のカタブツはその時砂漠で爆撃の中「ハクション!……粉塵の濃度にフィルタが追いつかなくなったかな」と首を傾げていた。が、それもまあ置いといて。
「避けているような感じもするけどね。ジョージ君が」
フウの言葉に、ギイはボールから口を離し、
「……そうかい?」
「阿紫花君の出かけている夜ばかり狙って戻ってくる。戻ってすぐ出かけるように輸送機の手配をしてあるんだよ。航空機の使用だって、彼の体じゃあたしが手を回さないと乗れないんだ。書類を見ればすぐに分かるよ。阿紫花君の出かけているだろう時間を選んでいるね、あれは。時間の調整なんか現地ですればいいのに、ヒースローで六時間も過ごしているからおかしいと思った。すぐに戻ってくればいいのに、この屋敷に戻ったのは夜の十時過ぎだ。そしてすぐ空港へ逆戻り」
「ああ……。それはおかしいな。……それで、かな。阿紫花の通っていたバーが、以前よりこの屋敷に近くなっている。どうして変えたのか、は言わなかったが」
「出かけてしまってからすぐに戻ってこれるようにかい。……面倒な。いっそアメリカみたいに同性結婚出来るようにイギリスの法律変えちゃうか。上院下院と首相に圧力かけて。あ、女王陛下にもう一つ王冠を送ったらどうだろう。あのダイヤモンド付いたヤツ」
「そんな事で金を使うのはどうかと思うよ、僕は。本人たちの意見も聞かずにそんな事してもね」
「まあそうか。……それでね、あたしは考えたのさ。どうして必死に互いの意思を確かめ合わないのか、と。しづらい理由が何かあるんだろうが、それはそこ、無理にでもさせればいいんじゃないかって」
「精力剤でも一服盛るのかい」
「綺麗な顔して下ネタはやめなさい。確かめ合うのは体じゃないよ、意思だってば」
「大して変わらん」
さらりとギイは言い、フウは「そうだけども」と人差し指で眉間を押さえる。
「とにかくだよ。ジョージ君が帰ってきた時、阿紫花君がこの屋敷に居ればいいんだ。ジョージ君の輸送機のタイムスケジュールをこちらで把握しておいた上で、阿紫花君に教えてやればいい」
「まあ……いいんじゃないか?それで彼らが何か解決出来るなら」
「興味ないのかい?」
「なくはないが、……そうだな。まだ聴いた事が無い」
「?」
首を傾げるフウに、ギイは苦笑し、
「ジョージのピアノさ。僕はまだ聴いてない。阿紫花を避けなくなったら、彼はこの屋敷のピアノを弾くかと思ってさ……」
『いい子にしていろ』
人形の目玉の内部の擬似水晶体を取り付け、阿紫花は思い出す。
『会ったら話す』
人形のような目をしたジョージはそう言って、その時回復していなかった自分を置いて行った。人形や人間相手のドンパチに、行ってしまった。
以来、会っていない。
半年も、会っていない。
「……フラれちまいやしたかね」
人形の目玉の外側の軟質膜を慎重に閉じて、阿紫花は呟き、目玉を天井の蛍光灯に透かした。
美しい鮮やかな青い虹彩だ。光に透けて、きらきら輝いている。焦点を絞る機能のために、幾枚も重なった稼働レンズが透けて深い色合いを作っている。
「お前ェさんは美人にしてやっからよ……」
そう呟いた。
「人形だって、いい人の一人や二人見つけられるようによ……」
「阿紫花」
突然の声に、阿紫花はしゃっくりに似た声を上げた。
「ひゃっ」
「男がそんな声で驚くなよ」
ギイだ。
「順調かい。それが今度の人形の目?」
「え、ええ……、まあ。どうでさ、綺麗でやしょ」
「青……」
ギイはかすかに微笑んだ。阿紫花は気づかない。
「--今夜は屋敷にいるかい?」
「へ?……」
「屋敷にいたら、君のいい人がやって来るかも知れないんだが」
ギイは茶化すでもなく、
「今夜はいたまえ。会いたいだろう」
「え、ええ?」
「この世の旅行はやがて数時間程度で世界を一回りできるだろうと予言した科学者が居たけど、まだそこまでじゃない。でもマッハで飛べば、なんでもない距離なんだなこれが……」
「?」
ギイはひらひらと手を振り、
「そういうわけだ。今夜だよ。阿紫花。君のいい人を、君は捕まえたまえ」
「どういう事だ。兵装を解いたF-22でEUを突っ切るなんて正気の沙汰か!」
「それは違う、ジョージ君。あれはアメリカ空軍が持ってるのをコピーしてあたしがNATOに売った次世代機だよ。世界情勢を省みて軍備性能こそボーイングのものより下げてあるが、輸送速度や積載はむしろコストに見合った--」
「誰が音速機の説明をしろと言った」
ジョージはヒビの入ったサングラスの手の中で圧し折り、
「なぜ私が、奥歯の砕けるような音速でイギリスに戻されなくてはならなかったのか、という事だ。何かあったのか」
「砕けたって再生--」
「貴方も乗ってみるか?……」
「……いや、結構だよあたしは」
書斎でジョージに詰め寄られ、フウは「降参!」とばかりにギイに目を遣る。
部屋の隅で控えていたギイは「やれやれ」と呟き、
「今晩は食事が無い」
「は?」
「阿紫花の要求にこたえようと、『鍋』という日本料理をメイドに作らせようとしたんだが、インプットデータに金属とガラス質の調理用器具としての鍋のデータが入ってしまってね。アウトプットデータがこの世のものとは思えないものになってしまった。まあ、君なら平気そうだが」
「それと私に何の関係が!」
「だから、阿紫花に本物の『鍋』がどんなものか教えてもらってきてくれ。今ならレストランも開いているし、屋台も出てるから自分たちで食べてきてくれ。ハイドパークなんてどうだ?セントラルに近いから暴漢に注意して行きたまえ」
「ちょっと待て。……ギイ」
怒りで震えるジョージに、ギイは平然と、
「どこで待つんだ」
「それは日本の切り返し方か?阿紫花もやっていたぞ。……どうして私が」
「君だからだ」
ギイは言った。
「君以外の誰が行くんだ。あのだらしない日本人の馬鹿なギャングと」
「……」
「地下の工房だ。行かないと改良中のボラのデータを全部テムズに投げ込む」
風が冷たい。イギリスの風はいつでも湿っていて、なんだかどこかオイル混じりの吐瀉物の臭いがする。街の臭い、というものがどこにでもあるものだが、英国のこれは特殊な気がする。
栄光と繁栄と、その陰の貧困と堕落、そして流れていった時代の輝きも。すべて入り混じった臭いだ。
歴史の臭いは決して芳しいものではない。それを思うにはうってつけの場所だ。
かつてここにはクリスタルパレスがあり、世界の注目を浴びた。そして元王妃を偲ぶ噴水が流れている。その流れの意味を考えると、かつてスラムだったドッグランズの繁栄も、現在のブリクストンの半スラムも大して意味などないように思えて来る。すべては流れ行く。そして戻らず、不変などない。
人は迷い逡巡する。時の流れは求めるのは決断だ。その正否はともかくも、まず決断し前に進む事だけを時は求める。その結果がどうであれ、迷ってはならないのだ。……。
ジョージは前を歩く阿紫花の背を見つめ、考え事をしながら喋る。内容は今日の出来事。動作性能に定評のあるPCのように、インとアウトでまったく違う。
「……それで、戦車の装備があるのにそいつらはラクダに乗って」
「ふーん。……」
「笑えるだろう、対空戦車とラクダだぞ」
「へえ……」
阿紫花は気のない様子で頷く。
そういえば、風が冷たいのに阿紫花はシャツ一枚だ。熱でもあるのか、と思ったが違うようだ。
「寒くないか」
「……」
ジョージの言葉に、阿紫花は振り向いた。
「寒ィ。どっかの誰かさんのせいで」
「ギイか?こんな夜の公園を指定した」
「……」
阿紫花は「だめだこりゃ」という顔で項垂れる。彼にしては珍しい光景だ。
「……酒でもひっかけてくりゃ良かった」
「え?」
「ジョージさん、この半年、なんであたしを避けてた?」
「それは……」
「こちとら半年も放って置かれて、それでもあんたと真っ向向き合えるほど、面の皮厚かねェんでさ。あんた、あたしに『待ってろ』っつった。だから待ってたじゃねえか。三回目も迎えに来ンだと思い込んで」
「……」
「二度あることは三度あるっつーけど、今度のはねえって事ですかい。あんた一人でドンパチやってよ、あたし一人で、人形弄りかよ。……もう、ダメって事ですかい」
違う。そう言いかけてやめた。
どう言語化したらいい。阿紫花がどうこう、ではない。連れて行きたくない、と思うだけだ。戦車や爆撃の下に、二度と連れて行きたくないだけだ。
だがそれを阿紫花が望んでいる。阿紫花が望みを曲げるとは思えないし、最初に言ったではないか。「知らない世界」。それを見せると。
暴力と武力行使のみの戦場など、見せたいと思うはずが無い。だがそこでジョージは生きている。阿紫花がヤクザの世界にいるのと同じ厚みで、そこに立っている。だからこそ、より楽な道を進ませるべきなのだ。
兵士など、この男には向いていない。軍隊音楽も、優しいピアノも。阿紫花には向いていない。
(思えば私たちは)
こんなに違っているんだな、と、今更思う。
変わってしまったのか、素地が見えるようになっただけか。それは分からない。だが移り変わるすべての前で、自分たちにだけ固執して立ち止まっていてはいけない。阿紫花の望みを容れてやっても、阿紫花の身が危険なだけだ。そこにジョージが立つ限り。
「……フウの人形作りの手伝いは、どうだ」
「普通」
「続けられそうなら、続けるといい。退屈はしないだろう。もし退屈なら、日本に戻ってもいいだろう」
「……」
「ヤクザでもいいさ。平和で暮らせ」
「……ついて来いって、言わねえのか」
そんな権利はもう無い。
「……もう、一人でもお前はどこにでも行ける。私も、どこにも行ける。それぞれ別個でも」
阿紫花は目だけわずかに見開いている。
ジョージは辛くなったがその眼差しを見返し、
「もう終わりにしよう」
「……」
「……帰ろう。寒いだろう」
ジョージがふと目を反らし、顔を上げると。
阿紫花は笑いながら、
「はは……。本当、寒ィや」
泣いているのか、と思ったが違った。
阿紫花はにんまりと笑み、
「じゃ、ここでさよならしやしょ」
「……」
「あ~あ。いっつもこうだ」
阿紫花は、ずんずんと歩いていく。そして、学生たちだろうか、若い10人ほどのいささか柄の悪いグループに向かっていく。座り込んで酒を飲んでいた彼らは、
「何、アンタ。混ざりたいの?」
「オッサン、何人?日本?」
などと陽気に言い合っている。
そう言えばサッカーの国際試合があったかな。それで浮かれているのかもしれない。
阿紫花はすぐに彼らに溶け込んでしまう。
笑っている。
それを見て、ジョージは背を向けた。
--これでいい。これで。
鼻先に、冷たく湿った風を感じる。
これで阿紫花が少しでも平和なら。
満足だ。
ジョージがそう思った瞬間だった。
がしゃん!とガラスの割れる音がした。
ジョージが音の残響の終わらぬうちにすばやく振り向くと。
瓶を片手に、阿紫花が若い男の頭に瓶を振り下ろしていた。
何をしている!と心の中でジョージは叫ぶ。
きゃあきゃあ、と狂騒の熱と阿紫花への非難に、柄の悪い若者たちが沸き立つ。
「いい子で待ってたって、意味ねえもの」
阿紫花は日本語でそう呟いた。
「あんたがいねえなら、死んだって同じじゃねえか」
阿紫花が振り向く。
「殺されたほうがマシでさ」
「……!」
若者たちの叫びが大きくなって。
瓶で殴られた男が別の瓶で阿紫花を殴ろうとした瞬間。
ジョージは阿紫花の手をとっていた。
阿紫花がやっとついていける速度で、ジョージは走り出した。
「走れ!」
「……連れて行く気がないなら、いいから、離し--」
「……お前はッ!」
心底いらだった声で、ジョージは小さく叫んだ。
「どうして私と居たがるんだ!こんなつまらない人間と!お前の事など何も知らない、お前の好きなモノもやりたい事も何も分からない人間と!」
殴られた男を介抱するのに精一杯なのと、酒が入っていたせいで若者たちは追ってこない。本当に無茶な話だ。
はあはあ、と阿紫花は息を切らせている。日頃から不摂生なのもあるが、ジョージの足が速すぎる。
それでも荒い息の下で叫んだ。
「理由、なんか、ねェよ!なん、で、そんなん、いるんでさ」
振り向き、阿紫花の顔を見ると。
「一緒に行きてェ、って、理由なんか」
悔しそうに歯を食いしばり、ジョージを見ていた。
「あたしが行きてェから行くだけでさ!ジョージ!逃げんなよ!今更逃げてんのはテメェじゃねえか!」
「……!」
ジョージは足を止めた。
急には停まれない阿紫花が、勢いのままぶつかってくる。
それを、抱きしめた。
「鍋って、本当にこんな料理なのかい?」
「いいんじゃないか?僕は昔東京の飲み屋で似たものを食べた記憶がある」
ギイとフウは、珍しく小さなテーブルで向かい合って、
「大根の厚く切って煮たヤツだろ、魚の練り物に、ウインナーも入ってるし。完璧じゃないか?」
「このリボンみたいなのは?」
「コンブだ。だしをとったり、コレを食べたり、いろいろ重宝するらしい」
知識だけメイド人形に与えた結果。
『鍋』は完璧に『おでん』と化していたが。
「ああ、案外美味しいね。この黄色いのがいい」
「それは巾着。中身は餅とか肉野菜だ」
「なんだかこう……厚いグラスの安い酒でも飲みたくなるね」
「阿紫花なら分かってくれそうだな」
ギイが言うと、メイド人形が二人の戻りを告げてくれた。
「え?早いな。泊まって来るかと思っていたのに」
「いいじゃないか。4人で食べよう。鍋ってそういうモンなんだろ」
「そうだな。聞いてみるか」
数分後。
「これは鍋じゃねえ」と言いそうになって阿紫花は踏みとどまった。
何故か誇らしげなギイや、「悪くないね、日本料理も」と大吟醸を傾けるフウ、そして「さっきの連中から損害賠償が出る前に一度英国を出るか……いやいっそ阿紫花が屋敷から出なければバレないか?」などとブツブツ悩むジョージに、何も。
言えなくなって阿紫花は、
「うめえよ、うん……」
さっき人様の脳天を瓶で殴った自分に、たっぷりからしを付けた大根をくれてやった。
END
そんなのもいいじゃない。
日本に帰るのも面倒だし(組関係への義理立てやら、村への挨拶やら)、ロンドンもなかなか面白いようで、阿紫花はフウの屋敷に留まっていた。別に居てくれと言われたのでもないし、居たいと言ったワケでもない。ただ宿代が浮くのと、人形があるから屋敷に居ただけだ。
自動人形の組み方を眺めているのも面白い。フウは文書や書籍でその知識を残すつもりはないらしく、それだけが不便だったが阿紫花は慣れた。もとより人形遣いに教科書などないし、黒賀村でもそれは同じ。見て覚える、技は盗む、習うより慣れろ。
世間などどうでもいいくせに、基本的な部分で職人気質な所で気があった。
「メカニックがいると、あたしも楽だよ」
フウは紅茶を啜り、手元のテーブルの上に極細の電極針を置いた。針金の先に髪の毛ほどの針が点いた、電極だ。
自動人形を作る工房の中だ。現代的で、無機質な機械類が並んでいる。フウの自動人形は思考と内部こそ無機質だが、有機的な身体は人間の質感を保持させている。使い勝手を謝れば変質も腐敗もする有機素材を組み立てるには、人間に施す以上に精密で繊細な作業が必要になるらしい。周囲の機械類はどれも浸透圧や体液循環、皮膚触感保持といったものばかりだ。
「ああ、ギイさんもジョージもいやすね」
熱心に人形の頭蓋殻のチタンを磨いていた阿紫花は、それをライトに透かす。
「美人にしてやりやすよ、っと……」
「君も悪くない腕だと思うよ、あたしは。根気はないが集中力もあるし、何より興味があるんだろう?人形に」
「あ~、そりゃね。昔から歯車とか見るのは好きですがね。でも正直、綺麗なだけのオネエチャン人形にゃ興味ねえな。人間に近づけるってのもどうでもいいし。あたしが好きなのは、ドンパチ出来る人形くらいでさ」
阿紫花はタバコの灰を灰皿に落とし、
「メイド人形たちもドンパチは出来ンでしょうけど、あたしが操るって類のモンじゃねえ。そいつがちょいとね」
「そうかい。--ああ、もう昼だ。昼食は?」
「あたしはもうちっと、こいつら見てやりやすよ。こっちの人に合わせて食事してたら、あっという間に体重が二倍くらいになっちまう。あの朝飯だけで一日腹いっぱいでさ。たいしてうまくもねえ飯--こりゃ失礼。この屋敷の主に言うこっちゃねえや。よく太りやせんね、フウさん」
「君が不健康なんだよ、阿紫花君。酒を夕食にする癖はもうやめた方がいい。ジョージ君にあたしが叱られる」
フウは面白くも無いその冗談に笑い、
「たまには日本食も出すように言ってみるかね」
「鍋食いたい」
「鍋?そんな硬いものを?」
「……」
「鍋、というのは日本の煮込み料理だよ。大き目の土鍋や金属鍋に、肉や魚や野菜といったその時々の具材を入れて、だし汁で煮る。ポトフみたいな感じだったかな。一般家庭や飲食店では、個別に振舞われるのではなく、鍋を卓の中心に置いてそれぞれ好きに取り分けたり箸でつついて食べるのは普通だ」
カフェ・オ・レをボールで飲み、ギイはそう説明した。
向かいで旗の立ったオムレツを食べていたフウが目を丸くし、
「鍋一杯に作るのかい。量的に考えても、一人じゃ食べられない食事って事かい?しかも大人数で一つの鍋に手を伸ばすって、……それはフォンデュみたいに軽食なのかい?」
「いや、菓子に応用できるフォンデュとは違う。日本のスモウレスラーの食事にもされるようなボリュームのあるケースもある。魚の内臓を主に使ったり、根菜を用いたものも」
ギイの説明に、フウはますます食欲が失せるように、
「日本の料理ってのは何とも不可思議だね」
「ロンドンにも和食レストランはあるだろう。シェフを一度呼んでみたらどうだい。阿紫花なぞより余程マシな日本人が作ってくれるはずだ」
「そうだねえ……ジョージ君が帰ってきたら考えてみよう」
人形の残党もまずいない現在ではあるが、今は逆に人間が、人形のデータを求めて暗躍している。軍事的な利用価値を考えると、無理も無い。
「軍人崩れのインテリマフィアを相手にさせるなら、ジョージは向いているだろう。対人歩兵やスカッドが通用しない体なんだし、そういう仕事が向いているんだろうな。だが僕は芸術家と軍力の繋がりについてはヒトラーの前例もあるから危険視している。アーティズムと戦争が結びつくのは最悪だ」
「大丈夫さ、彼のピアノ好きは子ども向けだ。それに軍隊には楽隊がいないとね。……」
当のジョージはこの時アラブの砂漠で自動人形を改造したオイルダラーの私設軍隊と交戦中だったが、それは置いといて。
「それにしても、阿紫花君だ。大人数で食べる食事を要求したんだ。……もしかして、淋しいのかね」
「ジョージがいないからか?まさか。ブリクストンの怪しげなバーに毎週出入りしてるよ。アイリッシュウィスキーと緑の目の金髪を口説くのに夢中さ。ちょっと前まではハックニーのバーだったがね」
日本人ならベルサイズやカムデンへ行けと言うんだ、とギイが呆れるのも「まあまあ」とフウはなだめ、
「それにしても大人しくしていると思わないかね。てっきり、人形に夢中なのかと思ったが、そうでもない。仕事の覚えも早いし、日本人だね、細かい仕事もきちんとこなす。しかし--さほど情熱的でもないね。そういう子なのかも知れないが」
「阿紫花はいつだって冷めてるように見えるよ。口先だけ笑っている。--だがジョージとイリノイへ向かった前後は割りと楽しそうだったように見えたんだがな。ジョージをからかっている内は本人も楽しそうだ」
「……長距離移動ヘリを出すから、早く戻らせるか。なんかねえ、見ていて少し切ないんだよ」
「NATOの音速機を借りた方が早い。それに阿紫花のそういう部分は、ただの女たらしのテクニックだ。騙されない方がいい」
ギイは手厳しく人差し指を出し、
「あれはそうやって男も女もたらし込んでいささかの罪悪も覚えない人間だ。気をつけたまえ。気がついたら養子縁組や遺産相続の書類にサインしているかも知れないぞ」
「面白いね、そいつは稀代の悪女、いやドン・ファンだ」
「ドン・ファンはストレートだったよ。女専門だ。ま、阿紫花は今の所待つ身を楽しんでいるから、世界の財の3分の一は守られるだろうがね」
「もしそうなったら世界経済の危機すら阿紫花君のせいかい?それは笑えるね」
「ジョージに頑張ってもらわないとなあ。世界の平和はあのカタブツにかかっているんだね」
……当のカタブツはその時砂漠で爆撃の中「ハクション!……粉塵の濃度にフィルタが追いつかなくなったかな」と首を傾げていた。が、それもまあ置いといて。
「避けているような感じもするけどね。ジョージ君が」
フウの言葉に、ギイはボールから口を離し、
「……そうかい?」
「阿紫花君の出かけている夜ばかり狙って戻ってくる。戻ってすぐ出かけるように輸送機の手配をしてあるんだよ。航空機の使用だって、彼の体じゃあたしが手を回さないと乗れないんだ。書類を見ればすぐに分かるよ。阿紫花君の出かけているだろう時間を選んでいるね、あれは。時間の調整なんか現地ですればいいのに、ヒースローで六時間も過ごしているからおかしいと思った。すぐに戻ってくればいいのに、この屋敷に戻ったのは夜の十時過ぎだ。そしてすぐ空港へ逆戻り」
「ああ……。それはおかしいな。……それで、かな。阿紫花の通っていたバーが、以前よりこの屋敷に近くなっている。どうして変えたのか、は言わなかったが」
「出かけてしまってからすぐに戻ってこれるようにかい。……面倒な。いっそアメリカみたいに同性結婚出来るようにイギリスの法律変えちゃうか。上院下院と首相に圧力かけて。あ、女王陛下にもう一つ王冠を送ったらどうだろう。あのダイヤモンド付いたヤツ」
「そんな事で金を使うのはどうかと思うよ、僕は。本人たちの意見も聞かずにそんな事してもね」
「まあそうか。……それでね、あたしは考えたのさ。どうして必死に互いの意思を確かめ合わないのか、と。しづらい理由が何かあるんだろうが、それはそこ、無理にでもさせればいいんじゃないかって」
「精力剤でも一服盛るのかい」
「綺麗な顔して下ネタはやめなさい。確かめ合うのは体じゃないよ、意思だってば」
「大して変わらん」
さらりとギイは言い、フウは「そうだけども」と人差し指で眉間を押さえる。
「とにかくだよ。ジョージ君が帰ってきた時、阿紫花君がこの屋敷に居ればいいんだ。ジョージ君の輸送機のタイムスケジュールをこちらで把握しておいた上で、阿紫花君に教えてやればいい」
「まあ……いいんじゃないか?それで彼らが何か解決出来るなら」
「興味ないのかい?」
「なくはないが、……そうだな。まだ聴いた事が無い」
「?」
首を傾げるフウに、ギイは苦笑し、
「ジョージのピアノさ。僕はまだ聴いてない。阿紫花を避けなくなったら、彼はこの屋敷のピアノを弾くかと思ってさ……」
『いい子にしていろ』
人形の目玉の内部の擬似水晶体を取り付け、阿紫花は思い出す。
『会ったら話す』
人形のような目をしたジョージはそう言って、その時回復していなかった自分を置いて行った。人形や人間相手のドンパチに、行ってしまった。
以来、会っていない。
半年も、会っていない。
「……フラれちまいやしたかね」
人形の目玉の外側の軟質膜を慎重に閉じて、阿紫花は呟き、目玉を天井の蛍光灯に透かした。
美しい鮮やかな青い虹彩だ。光に透けて、きらきら輝いている。焦点を絞る機能のために、幾枚も重なった稼働レンズが透けて深い色合いを作っている。
「お前ェさんは美人にしてやっからよ……」
そう呟いた。
「人形だって、いい人の一人や二人見つけられるようによ……」
「阿紫花」
突然の声に、阿紫花はしゃっくりに似た声を上げた。
「ひゃっ」
「男がそんな声で驚くなよ」
ギイだ。
「順調かい。それが今度の人形の目?」
「え、ええ……、まあ。どうでさ、綺麗でやしょ」
「青……」
ギイはかすかに微笑んだ。阿紫花は気づかない。
「--今夜は屋敷にいるかい?」
「へ?……」
「屋敷にいたら、君のいい人がやって来るかも知れないんだが」
ギイは茶化すでもなく、
「今夜はいたまえ。会いたいだろう」
「え、ええ?」
「この世の旅行はやがて数時間程度で世界を一回りできるだろうと予言した科学者が居たけど、まだそこまでじゃない。でもマッハで飛べば、なんでもない距離なんだなこれが……」
「?」
ギイはひらひらと手を振り、
「そういうわけだ。今夜だよ。阿紫花。君のいい人を、君は捕まえたまえ」
「どういう事だ。兵装を解いたF-22でEUを突っ切るなんて正気の沙汰か!」
「それは違う、ジョージ君。あれはアメリカ空軍が持ってるのをコピーしてあたしがNATOに売った次世代機だよ。世界情勢を省みて軍備性能こそボーイングのものより下げてあるが、輸送速度や積載はむしろコストに見合った--」
「誰が音速機の説明をしろと言った」
ジョージはヒビの入ったサングラスの手の中で圧し折り、
「なぜ私が、奥歯の砕けるような音速でイギリスに戻されなくてはならなかったのか、という事だ。何かあったのか」
「砕けたって再生--」
「貴方も乗ってみるか?……」
「……いや、結構だよあたしは」
書斎でジョージに詰め寄られ、フウは「降参!」とばかりにギイに目を遣る。
部屋の隅で控えていたギイは「やれやれ」と呟き、
「今晩は食事が無い」
「は?」
「阿紫花の要求にこたえようと、『鍋』という日本料理をメイドに作らせようとしたんだが、インプットデータに金属とガラス質の調理用器具としての鍋のデータが入ってしまってね。アウトプットデータがこの世のものとは思えないものになってしまった。まあ、君なら平気そうだが」
「それと私に何の関係が!」
「だから、阿紫花に本物の『鍋』がどんなものか教えてもらってきてくれ。今ならレストランも開いているし、屋台も出てるから自分たちで食べてきてくれ。ハイドパークなんてどうだ?セントラルに近いから暴漢に注意して行きたまえ」
「ちょっと待て。……ギイ」
怒りで震えるジョージに、ギイは平然と、
「どこで待つんだ」
「それは日本の切り返し方か?阿紫花もやっていたぞ。……どうして私が」
「君だからだ」
ギイは言った。
「君以外の誰が行くんだ。あのだらしない日本人の馬鹿なギャングと」
「……」
「地下の工房だ。行かないと改良中のボラのデータを全部テムズに投げ込む」
風が冷たい。イギリスの風はいつでも湿っていて、なんだかどこかオイル混じりの吐瀉物の臭いがする。街の臭い、というものがどこにでもあるものだが、英国のこれは特殊な気がする。
栄光と繁栄と、その陰の貧困と堕落、そして流れていった時代の輝きも。すべて入り混じった臭いだ。
歴史の臭いは決して芳しいものではない。それを思うにはうってつけの場所だ。
かつてここにはクリスタルパレスがあり、世界の注目を浴びた。そして元王妃を偲ぶ噴水が流れている。その流れの意味を考えると、かつてスラムだったドッグランズの繁栄も、現在のブリクストンの半スラムも大して意味などないように思えて来る。すべては流れ行く。そして戻らず、不変などない。
人は迷い逡巡する。時の流れは求めるのは決断だ。その正否はともかくも、まず決断し前に進む事だけを時は求める。その結果がどうであれ、迷ってはならないのだ。……。
ジョージは前を歩く阿紫花の背を見つめ、考え事をしながら喋る。内容は今日の出来事。動作性能に定評のあるPCのように、インとアウトでまったく違う。
「……それで、戦車の装備があるのにそいつらはラクダに乗って」
「ふーん。……」
「笑えるだろう、対空戦車とラクダだぞ」
「へえ……」
阿紫花は気のない様子で頷く。
そういえば、風が冷たいのに阿紫花はシャツ一枚だ。熱でもあるのか、と思ったが違うようだ。
「寒くないか」
「……」
ジョージの言葉に、阿紫花は振り向いた。
「寒ィ。どっかの誰かさんのせいで」
「ギイか?こんな夜の公園を指定した」
「……」
阿紫花は「だめだこりゃ」という顔で項垂れる。彼にしては珍しい光景だ。
「……酒でもひっかけてくりゃ良かった」
「え?」
「ジョージさん、この半年、なんであたしを避けてた?」
「それは……」
「こちとら半年も放って置かれて、それでもあんたと真っ向向き合えるほど、面の皮厚かねェんでさ。あんた、あたしに『待ってろ』っつった。だから待ってたじゃねえか。三回目も迎えに来ンだと思い込んで」
「……」
「二度あることは三度あるっつーけど、今度のはねえって事ですかい。あんた一人でドンパチやってよ、あたし一人で、人形弄りかよ。……もう、ダメって事ですかい」
違う。そう言いかけてやめた。
どう言語化したらいい。阿紫花がどうこう、ではない。連れて行きたくない、と思うだけだ。戦車や爆撃の下に、二度と連れて行きたくないだけだ。
だがそれを阿紫花が望んでいる。阿紫花が望みを曲げるとは思えないし、最初に言ったではないか。「知らない世界」。それを見せると。
暴力と武力行使のみの戦場など、見せたいと思うはずが無い。だがそこでジョージは生きている。阿紫花がヤクザの世界にいるのと同じ厚みで、そこに立っている。だからこそ、より楽な道を進ませるべきなのだ。
兵士など、この男には向いていない。軍隊音楽も、優しいピアノも。阿紫花には向いていない。
(思えば私たちは)
こんなに違っているんだな、と、今更思う。
変わってしまったのか、素地が見えるようになっただけか。それは分からない。だが移り変わるすべての前で、自分たちにだけ固執して立ち止まっていてはいけない。阿紫花の望みを容れてやっても、阿紫花の身が危険なだけだ。そこにジョージが立つ限り。
「……フウの人形作りの手伝いは、どうだ」
「普通」
「続けられそうなら、続けるといい。退屈はしないだろう。もし退屈なら、日本に戻ってもいいだろう」
「……」
「ヤクザでもいいさ。平和で暮らせ」
「……ついて来いって、言わねえのか」
そんな権利はもう無い。
「……もう、一人でもお前はどこにでも行ける。私も、どこにも行ける。それぞれ別個でも」
阿紫花は目だけわずかに見開いている。
ジョージは辛くなったがその眼差しを見返し、
「もう終わりにしよう」
「……」
「……帰ろう。寒いだろう」
ジョージがふと目を反らし、顔を上げると。
阿紫花は笑いながら、
「はは……。本当、寒ィや」
泣いているのか、と思ったが違った。
阿紫花はにんまりと笑み、
「じゃ、ここでさよならしやしょ」
「……」
「あ~あ。いっつもこうだ」
阿紫花は、ずんずんと歩いていく。そして、学生たちだろうか、若い10人ほどのいささか柄の悪いグループに向かっていく。座り込んで酒を飲んでいた彼らは、
「何、アンタ。混ざりたいの?」
「オッサン、何人?日本?」
などと陽気に言い合っている。
そう言えばサッカーの国際試合があったかな。それで浮かれているのかもしれない。
阿紫花はすぐに彼らに溶け込んでしまう。
笑っている。
それを見て、ジョージは背を向けた。
--これでいい。これで。
鼻先に、冷たく湿った風を感じる。
これで阿紫花が少しでも平和なら。
満足だ。
ジョージがそう思った瞬間だった。
がしゃん!とガラスの割れる音がした。
ジョージが音の残響の終わらぬうちにすばやく振り向くと。
瓶を片手に、阿紫花が若い男の頭に瓶を振り下ろしていた。
何をしている!と心の中でジョージは叫ぶ。
きゃあきゃあ、と狂騒の熱と阿紫花への非難に、柄の悪い若者たちが沸き立つ。
「いい子で待ってたって、意味ねえもの」
阿紫花は日本語でそう呟いた。
「あんたがいねえなら、死んだって同じじゃねえか」
阿紫花が振り向く。
「殺されたほうがマシでさ」
「……!」
若者たちの叫びが大きくなって。
瓶で殴られた男が別の瓶で阿紫花を殴ろうとした瞬間。
ジョージは阿紫花の手をとっていた。
阿紫花がやっとついていける速度で、ジョージは走り出した。
「走れ!」
「……連れて行く気がないなら、いいから、離し--」
「……お前はッ!」
心底いらだった声で、ジョージは小さく叫んだ。
「どうして私と居たがるんだ!こんなつまらない人間と!お前の事など何も知らない、お前の好きなモノもやりたい事も何も分からない人間と!」
殴られた男を介抱するのに精一杯なのと、酒が入っていたせいで若者たちは追ってこない。本当に無茶な話だ。
はあはあ、と阿紫花は息を切らせている。日頃から不摂生なのもあるが、ジョージの足が速すぎる。
それでも荒い息の下で叫んだ。
「理由、なんか、ねェよ!なん、で、そんなん、いるんでさ」
振り向き、阿紫花の顔を見ると。
「一緒に行きてェ、って、理由なんか」
悔しそうに歯を食いしばり、ジョージを見ていた。
「あたしが行きてェから行くだけでさ!ジョージ!逃げんなよ!今更逃げてんのはテメェじゃねえか!」
「……!」
ジョージは足を止めた。
急には停まれない阿紫花が、勢いのままぶつかってくる。
それを、抱きしめた。
「鍋って、本当にこんな料理なのかい?」
「いいんじゃないか?僕は昔東京の飲み屋で似たものを食べた記憶がある」
ギイとフウは、珍しく小さなテーブルで向かい合って、
「大根の厚く切って煮たヤツだろ、魚の練り物に、ウインナーも入ってるし。完璧じゃないか?」
「このリボンみたいなのは?」
「コンブだ。だしをとったり、コレを食べたり、いろいろ重宝するらしい」
知識だけメイド人形に与えた結果。
『鍋』は完璧に『おでん』と化していたが。
「ああ、案外美味しいね。この黄色いのがいい」
「それは巾着。中身は餅とか肉野菜だ」
「なんだかこう……厚いグラスの安い酒でも飲みたくなるね」
「阿紫花なら分かってくれそうだな」
ギイが言うと、メイド人形が二人の戻りを告げてくれた。
「え?早いな。泊まって来るかと思っていたのに」
「いいじゃないか。4人で食べよう。鍋ってそういうモンなんだろ」
「そうだな。聞いてみるか」
数分後。
「これは鍋じゃねえ」と言いそうになって阿紫花は踏みとどまった。
何故か誇らしげなギイや、「悪くないね、日本料理も」と大吟醸を傾けるフウ、そして「さっきの連中から損害賠償が出る前に一度英国を出るか……いやいっそ阿紫花が屋敷から出なければバレないか?」などとブツブツ悩むジョージに、何も。
言えなくなって阿紫花は、
「うめえよ、うん……」
さっき人様の脳天を瓶で殴った自分に、たっぷりからしを付けた大根をくれてやった。
END
そんなのもいいじゃない。
コメディ。いろいろやってますので、露骨な性表現が苦手な方は閲覧されませんようお願いいたします。
デスクワークのジョージに阿紫花が悪戯。
コミックス持ってないので時間軸がちょっと分からないのですが……サハラ後って、ギィとジョージと阿紫花と鳴海とミンシアでフウの屋敷にいたのでしたっけ?ううむ、間違っていそう。
感動したものは大概記憶しておきたいけど、二次作品を書くなら手近に置くべきですよね……。
BGM : →P/ia-n/o-jaC←
ピアノが最高。一度聴いてみてください。ジョージがもし弾くなら、クラシックより、こういうアレンジ効いた曲が似合いそう。オススメは「台風」。合いの手の男の声が素敵です。阿紫花とタッグ組んでるジョージのシーンってこんなかしら?笑
他の曲もイイ。スッゴク感じる。素敵。
……名曲でエロ書いてばっかですいません。アーティストの方々には本当に申し訳ないです。
デスクワークのジョージに阿紫花が悪戯。
コミックス持ってないので時間軸がちょっと分からないのですが……サハラ後って、ギィとジョージと阿紫花と鳴海とミンシアでフウの屋敷にいたのでしたっけ?ううむ、間違っていそう。
感動したものは大概記憶しておきたいけど、二次作品を書くなら手近に置くべきですよね……。
BGM : →P/ia-n/o-jaC←
ピアノが最高。一度聴いてみてください。ジョージがもし弾くなら、クラシックより、こういうアレンジ効いた曲が似合いそう。オススメは「台風」。合いの手の男の声が素敵です。阿紫花とタッグ組んでるジョージのシーンってこんなかしら?笑
他の曲もイイ。スッゴク感じる。素敵。
……名曲でエロ書いてばっかですいません。アーティストの方々には本当に申し訳ないです。
ある日の悪戯
「すまないが、ジョージ、仕事を頼まれてくれないか」
フウはある日そう言った。
よく晴れた午前の、屋敷の一室である。
「しろがねとしてのフェイスレスが残した痕跡を、いろいろ集めているのだよ。今後のために纏めておきたい。何か役に立つかもしれない。人形にさせてもいいんだが、君の主観も欲しいかと思ってね」
フウは苦笑し、
「君を裏切った男の痕跡を辿らせるのは、正直心苦しいんだがね。Oである君が、一番適任だろうと思う。今いるメンバーの中では、一番ヤツに近かったワケだから。ギィには断られたし、阿紫花には頼めない。彼はしろがねの事など、全然知らないからね」
「……ああ」
にこりともせずにジョージが頷く。「分かった」
「パソコンは使えるね?愚問だったかね。失礼--急ぐ仕事ではない。君の好きにやってくれ」
フウはかすかに微笑み、
「一度、すべて目を通してみてくれたまえ。ジョージ」
そう言った。
暇人と思われた。そういう事なのだろう。
ジョージは長い髪を纏め、椅子に腰を下ろした。
目の前のマホガミーのデスクの上には、ジョージですら一度に運びきれないような紙の束が載っている。すべて報告書だ。インターネットでアングラに流れるニュースから、某大国の衛星から撮影した真夜中のサーカス団の映像まで。
恐ろしく膨大な資料、しかも使用している言語がばらばらだ。なるほど、しろがねや-Oが適任なのは一目で分かった。少なくとも、言語の問題はないのだから。
ジョージに与えられた執務室に置いてあるパソコンは、そのまま屋敷の管理コンピュータの一部に直結しているらしい。端末からのアクセスを、比較的容易に受け入れる設定にしてくれていたようだ。パソコンを立ち上げるとすぐに屋敷の管理コンピュータに接続され、フウ・インダクトリー専用のOS画面が映る。
教えられていたパスワードを入力する。しばらく待った。認証に時間がかかる。
頬杖をついて待っていたが、ふと視界にメガネが映った。フウの私物だろうか。手に取ると、度は入っていないと分かった。眼精疲労や電磁波の防止に使うメガネのようだ。
人形しかいない屋敷の中で、フウしか使うものはいないだろう。だがフウはこの端末は使わない。あくまでゲスト用なのか。つくづく手入れの行き届いた屋敷だ。
ジョージはサングラスを外し、メガネをかけた。別に眼精疲労も電磁波も、しろがね-Oには影響しない。だが使われるのを待っているだけのメガネだ。使ってやろうという気になった。
レンズ越しの視界でパソコンの液晶を眺めた時、薄く開けたままのドアの近くに人間が見えた。
阿紫花だ。珍しくベストを着ている。それに服の仕立てが違う。コートの袖をまくるような着こなしをする彼にしては、随分と品がいい。
室内にジョージの姿を認め、阿紫花は猫が隙間から入ってくるようにするりと入ってきた。
「ジョージさん、何してんでさ」
「見ての通りだ。邪魔するな。……」
「まだ何もしてねえじゃねえか」
阿紫花は口を尖らせて近づいてくる。
「えーと……『アフリカ・サハラ西域で確認された大型銃火器を装備した未確認の人型兵器に関する報告書』……」
比較的流暢な英語で口にしてから、阿紫花は「ダメだ、意味が分からねえ」と言った。
「だから邪魔するな」
「でもこれ、アンタの前の親分でやしょ」
阿紫花は手近にあった一枚を掲げる。フェイスレスの顔の衛星写真だ。
「コレ関係?」
「……ああ。フウに頼まれた」
ジョージの言葉に阿紫花は鼻を鳴らし、
「アンタ昨日今日までへこんでたじゃねえですか。なんでフウのじいさんに言われたからって、素直にやりますかねえ。断りゃいいじゃねえかよ。ホントはイヤだ、って顔に書いてまさあね、ジョージ」
「……別に」
「……アンタ、結構人からイヤな仕事押し付けられるタイプでしょ。断る理由探すタイプさ。そんなの一言『イヤだ』って蹴っちまえばいいのに……」
「お人好しでやすねえ」と言いながら阿紫花はタバコに火をつける。灰皿がない。窓辺にあった蘭の鉢植えの水皿に灰を落とした。
「邪魔はしやせんよ、見てるだけ。……へへ……」
「なんだ」
「メガネ、似合うじゃねえですか」
ニヤニヤと阿紫花は笑っている。
ジョージは一瞬目をやり、すぐにパソコンに戻した。
それからしばらくは、二人とも無言だった。
阿紫花はタバコを吸いながらソファに寝転がっている。ドレープのレースのカーテンが添えられた大窓からは青空しか見えないだろうに、飽きもせず見上げている。
阿紫花が静かなおかげで、ジョージは仕事に集中出来た。
ひたすら分類と分析を繰り返す作業だ。どちらかと言えば楽だが、--時折、傷口を抉られるような気分がした。
-Oのデータ。
各個体の改良手術の記録。
まるで、「より強い者を作る実験」のように、段階を追って。
--私はとっくに旧式、か。
ジョージは小さく嘆息する。
分かっていたつもりでも、情報の束を見せ付けられると、苦しい。
だが仕方がない。仕方が、ないのだ。もう戻れない。
(……しろがねになった時から、それは同じか)
いやもっと前?もっと、ゾナハ病に罹患する前?
(……感傷など)
今更必要ない。
詳細なデータの閲覧と入力を繰り返す内に、どうも深い場所まで潜り込んでしまったらしい。「アクセス権限のない領域です」という警告が現れる。屋敷のコンピュータ経由でフウ・インダクトリーの巨大コンピュータの深部にアタックしたらしい。
特定のポイントからの巨大コンピュータへの不正な外部アクセスの痕跡を辿っていたのだが、自分も深く入り込みすぎたらしい。
やっている事がクラッカーと変わらなくなる前に引き返すべきか?……やっと面白くなってきたのに、とジョージは心の中で呟く。
アクセスポイントを増やして地球を三周くらいしてアクセスするか。それとも一度どこかの軍を経由するか。何でもいいが、使っている端末では耐えられる気がしない。単純にアタックをかけて解読すればいいという話なのだが……。
フウのコンピュータだから、フウに言えばきっと暗号など解読せずともアクセスコードを教えてくれるだろう。しかし。
(確かに、私は理由を探すタイプだな)
「アンタ、結構人からイヤな仕事押し付けられるタイプでしょ」と言った阿紫花の言葉を思い出す。
これだって別に強制ではなかった。頼まれたからやっているだけだ。不愉快でも、苦痛でも、断る理由がなかったからだ。
だがそれも、退屈な話だ。
(……フン、フウめ。後で慌てるだろうか)
内部--つまりジョージからの不正アクセスの痕跡が見つかったら、仕事を頼んでいたフウは慌てるだろうか?
痕跡など残さない自信はある。だが少しだけ、残してやるのがいいのだ。気づけばいい。ささやかな悪戯だ。
立ち上がり長い上着を脱ぎ始めたジョージに、阿紫花は首をめぐらせた。
「ジョージさん、なんで脱いでるんで?」
脱いだコートを適当に椅子の背に掛け、ジョージは左腕の袖を肩口近くまで捲り上げる。
白い筋肉質な腕が見え、阿紫花が立ち上がり近づいてくる。
それに見向きもせず、ジョージは二の腕の内側から、何かを引き出した。黒いコードだ。
ジョージはコードの先端に何か嵌め込み、それをハードディスクの隅に接続した。
「何を……」
後ろからそれを覗き込み、阿紫花は言った。「何すんでさ」
画面の上では暗号解読のためのバイナリエディタがさかんに動き回っている。
「……フウへの、悪戯だ」
「悪戯ァ?」
「確かに、いささか不快になったからな。……」
「……で、何すンでさ」
「解読して、入り込んで、フルコントロール権限を借りる」
「……で、何すンでさ」
「何も。見たいデータを見て、出て行くだけだ。入り込んだ痕跡を誰かが見つけて騒ぐだけ。見つかればの話だが」
「……それが、悪戯?」
「ああ。無意味だろう?悪戯だからな」
「……小難しい意趣返しでやすねえ」
「下らないだけだ。こんなもの。だから悪戯だと言っているだろう」
ふと気づいたように、ジョージは腕で足を持ち上げ姿勢を正した。
「私の身体の両足とボラの制御システムを、一時的に停止させた。停止したシステム分の容量と機能を、この端末の補助に使っている。この端末ではいささかパワー不足だからな」
ジョージはドアに目をやり、
「忘れていた。接続している間は、足が動かせない。閉めてきてくれ。見つかると、コトだ」
と言った。そのまま画面に集中する。
だが。
「……おい」
「へえ」
「どうして机の下に入り込む」
阿紫花が、机の下のジョージの足元に跪いている。
大きなデスクだから、余裕はあるだろうが窮屈に変わりはない。
「何を考えて……」
「あたしも、悪戯してえ気分なんでさ。足、動かねえだけでしょ?」
阿紫花が、ジョージのズボンのファスナーに手をかける。
ジョージは慌てた。
「ドアが開いている。見つかったら--」
「でえじょうぶでさ。ここは角部屋で人通りなんかほとんどねえ。それに見っかったってメイド人形だ。お人形さんに見られたって、なんてこたねえよ」
幸い、デスクは完全に箱のような形をしているから、廊下からは見えない。
しかしそれでも、誰か来たらどうするのだ。
「今更……大した事かい?あたしが思うにね、フウのじいさんはもっとえげつねえ場面だって見た事あるお人でさ」
「……」
「しろがねったって、ついてるモンは人間と一緒なんですもんねえ。……案外、見て楽しんでるかも知れやせんぜ。……」
言いながら、口に咥えたファスナーを下ろしていく。
ズボンの前を開け、下着をずらし、それを取り出す。
阿紫花の舌が先端に触れた、
「阿紫花っ……」
「なんでさ?悪戯、そっちはそっちで続けなせえよ。……」
画面が目まぐるしく切り替わる。すばやくやらなければ、気づかれて炎の壁で焼かれるだろう。
「……いいか、こんな事しても私は……出さないからな」
「へえへえ。耐えられっか、勝負といきやしょ」
柔らかい口内に先端が含まれ、ジョージは息を呑む。
「口に、入り切んね……や。まだ勃ってねえってのに……」
舌で溝を掘りながら、阿紫花は言う。
「ホント、こんなの……よく入ると、思いやすよ……。昨日も散々、……コレで、あたしの中、」
しゃぶるように、先端を口に含んでは出す。
「掻き回して……、ココ、当たンでさ……。イイとこ、抉るみてえに……。は……、たまんねえ……」
情景を思い起こさせるように、阿紫花は卑猥な言葉を吐く。
視線をパソコンの画面に集中させ、ジョージは耐える。
解読が終わり、一番外壁である暗号は解読できたようだ。
すぐにその奥の暗号を解読し始めなくてはいけない。
どの方法で暗号化しているのだろう?どの方法で解読できるだろう?――思考は纏まらないが、ジョージはキーを押した。こんな事になった以上、直接な方法で構わない。見つかる可能性は高いが確実な方法を取る。
「……耐えてんで?」
阿紫花の声がした。
勃ちが悪い。
「言っただろう。出さない」
「……そう言われっと、何でもしたくなンのが人情ってか……」
「無駄だ。私は-Oだぞ?」
阿紫花もいい加減聞き飽きたであろう科白を、ジョージが吐いた時だった。
「ジョージ。進んでるかい?」
ギィだ。外出用のコートを羽織っているから、出かけるのか、帰ってきたのか。
「ギィ!?」
「何を驚いているんだ?今さっき、フウに言われてね。追加だ。最新の報告だそうだ。紙じゃなくてUSBで持ってきた。良かっただろ?」
ジョージは腕まくりを元に戻した。コードには気づかれていない。
「……ああ」
ギィは机の向こうに立って資料を眺め、
「結構な量だな。それでも三割以上処理したのかい?君は案外、仕事が早いな」
「……それほどでも。……っ」
急に強く吸われ、ジョージは目を見開く。
音が出ないのが不思議なくらい、深く激しく吸われている。
「? どうした」
「いや、……今日の予定は?」
ギィはコートの衿を正し、
「僕はこの後、街へ出て、ちょっとね。ああ、阿紫花を見なかったかい?」
机の下で私のアレを吸っている--とは、言えない。
「いや……何か、したのか?」
「フウが以前に青年の執事人形を作ったそうなんだ。まあ、すぐに飽きてやめたそうなんだが、その時に着せた服が残っていた。阿紫花があまりにも安っぽい格好をしているからね。たまりかねたフウが、その服を着せてみた」
それであの服か。道理で英国風の仕立てになっていると思った。
ギィは顎に手をやり、
「人形なんて、大概やりすぎな程に均整を取って作っているのにな。袖丈とパンツの丈を直したくらいで、後はぴったりだった。フウが手を叩いて面白がってね。まるでペットに服を着せる飼い主さ」
「……フン」
「彼は鳴海も気に入ったらしいが、全然違う扱いだな。細身で黒髪の日本人形が、フウはいたく気に入ったらしい。阿紫花にはもったいないほど身奇麗にしたのはいいが、フウが着せ替えのように着替えばかりさせるから、阿紫花が逃げてしまった」
それでこんな屋敷の隅に、阿紫花はやって来たのか。
下半身への刺激に必死に耐えながらも、ジョージは納得する。
「どうも我々しろがねは、銀髪以外を見ると弄りたくようだね。そう思わないか、ジョージ」
ギィめ、本当は気づいているのではないか?--余裕を失いつつあるジョージはそんな勘繰りをする。
この綺麗なしろがねは、一癖も二癖もある男なのだ。
当のギィは笑って、
「なんてね。同じ黒髪でも、鳴海なんか何を着せても似合わないがね。いやあ、君にも見せたかったなあ。阿紫花が、メイド人形の服を……」
「着たのか!?」
「……着せられそうになって、目を丸くしていたよ。カワイイ顔になるものだね。それで『悪ふざけはツラだけにしてくんな、フウさん』って逃げ出してね」
ギィは口真似をする。似ていない。
「……バカだ……阿紫花もフウも」
「フウも悪ふざけが過ぎたと反省しているよ。阿紫花に謝りたいそうだ。それで今、メイド人形が屋敷中を探している。あの中国のお嬢さんも手伝ってくれているんだが、--ここにはまだ誰も来なかったみたいだな」
「あ、ああ……」
ジョージはパソコンに注視する振りをする。クラッキング中だとバレてはいないが、それにしても間が悪い。阿紫花め。
「……」
ギィは顎に触れていた指を曲げ、少し首をかしげた。
何か気づいたのか?
ギィはにっこりも微笑んだ。
「ここにはいないようだ。僕はロンドンへ出てくるから、帰りは遅くなるよ。ゆっくり『仕事』にいそしみたまえ」
「……ああ」
「ああ、今日は暖かいなあ!ドアを開けて行ってやるよ。いやあ、僕は本当に気が利く男だな」
そんな事を言って、ドアを全開にしてギィは出て行った。
「……性悪め」
「なんでさ?ジョージさん。今更説教?」
勃起した性器の先端を口に含み、阿紫花は上目遣いをする。
「へへ……勃ちやした」
「……」
全開のドアの向こうで、時折メイド人形が顔を覗かせる。室内にジョージしかいない事を感知すると、すぐにどこかへ消える。熱感知は使っていないようだが、本気で探し回っているものでもないのだろう。家事の片手間に探しているだけらしい。寝具や家具、書類を運びながらジョージの顔を覗いていくメイドばかりだ。
「……イヤにモノを運ぶメイドが多いな」
「ああ、ここは角部屋だけど、向かいが管理室なんでさ」
「……」
「モニタールームは別にあンだが、もっと大本のコンピュータの管理室はここの向かいなんだとかなんだとか……。ちなみにそん隣は物品管理室だとかって。消耗品とか」
日用品を運ぶメイドが多かったのはそのせいか。
「お前、さっき『ここは人通りが少ない』と……」
「あいつら人形だ。人じゃねえ」
むしゃぶりつきながら、阿紫花は言う。
「人形なんかにゃ勿体ねえ……あたしのモンでさ。……」
言いながら、阿紫花はベルトを外した。ズボンの前を寛げ、中に手をやる。「あたしも、勃ってら……」
せっかくフウの揃えた上等なシャツもベストもズボンも、皺がよっている。阿紫花の、前を寛げて自らを扱き上げる動作に負け、ぐしゃぐしゃだ。
「あ、あたし……なんで感じてンですかね……アンタなんかのしゃぶって、テメエの竿しごいて……」
「……」
「せっかく……マシなスーツ着てんのに気づかねえ朴念仁なんかの……しゃぶって……興奮しまくって、……」
舌の動きが早くなる。
足が動けば腰を引きたくなるような快楽に、ジョージは息を呑む。
いっそPC端末との接続を絶って、足とボラの制御を復活させるか。あそして阿紫花を止める。だがそれでは解読が進まない。物事を途中で辞めるのは、性に合わない。
画面の中では、解読が進み続けている。コードを要求する画面に、機械的に入力した。上半身の制御システムは切っていない。だがもし普通の人間なら、下半身の熱に気を取られて、手が震えてしまうだろう。
もう少しだ。もう少しで、辿り着く。
HDDがフル稼働する音に混ざり、阿紫花の熱く潤んだ声が足元から聞こえる。
「そっち、進んでやす?……こっちも……イイ感じ……」
「……っ」
「ハ……、あたしも……ビンビンなってンでさ……ジョージ……。しゃぶらせるだけ、って……そりゃ……あんた、恨みやすよ……」
自ら扱き上げる、その動作が早くなっている。
「欲しく、なってンのに……」
潤んだ瞳と目が合う。
その瞬間--。
「ジョージ、何してるの?」
ミンシアの声がした。
「阿紫花見なかった?なんかフウさんが探してたわよ」
「し--知るか!」
ジョージは思わず怒鳴っていた。悪気はない。だが焦りが頂点まで達しつつある。
ミンシアはさすがに男所帯で育っただけあって、怒鳴り声などには怯まない。首をかしげ、
「やだ、何怒ってるの?顔赤いわよ、珍しい。……熱でもあるの?」
と、心配して見せた。
ジョージは目をそらす。バツが悪い。今だって下半身を阿紫花に弄られ続けている。もしこのうら若き美少女にそれがバレたら、周囲からどんな謗りを受けるか……考えるだに恐ろしい。
「……熱など。……すまない。怒鳴って……」
「……やっぱ変ねえ、ジョージ。なんか気弱ねえ。……何かあったの?何してるの、こんなにたくさんの書類……」
「フェイスレスの、洗い直しだ」
「まあ……」
ミンシアは机の横に回りこんでくる。
ジョージは青ざめたが、ミンシアは気づかない。
「昨日今日で、ジョージ……辛くない?」
辛い。非常に。ミンシアの、純粋に心配する美しい黒曜石のような瞳を見返す事が出来ない。
「ジョージ、無理しないでね」
ひたりと、清らかな冷たい手が額に触れた。
「一人で、無理しないで」
ぞく、と下半身の血が動いた気がした。
ミンシアは微笑んだ。
「熱はないみたいね」
「……大丈夫だ。……悪いが、一人にしてくれ」
気を悪くした様子もなく、ミンシアは頷き、机から離れる。
出て行こうとするミンシアの背中に、ジョージは声を掛けた。
「ミンシア。--ありがとう」
「……」
「心配してくれて……」
消え入りそうな声だったが、ジョージは確かにそう言った。
ミンシアは微笑み、
「やっぱり変よ、ジョージ。でも、どういたしまして。ここのドア開いてたかしら?閉めていくわよ?」
ドアを閉じ、出て行った。
気は強いが、悪い娘ではない。むしろ周囲に気を遣う性質の娘だ。話しているとすぐにそれは分かる。
だからこそ、罪悪感に苛まれる。
「阿紫花……」
ジョージはメガネを外し、放るように机の上に置いた。
左手の親指で眉間を押す。
「……お前の負けだ」
「……まだ、終わってねえ」
「メインコンピュータの奥に入り込んだ。……完全にフルコントロール出来る。私の勝ちだ」
一度進入すれば、後は容易い。数時間おきに暗号を換えてしまうシステムだから、再度進入するのは手間がかかる。しかし一度到達出来たのなら、二度目は近道が分かる。
阿紫花の髪を掴み、咽喉奥に先端を押し込むように動かした。
「……っ」
えずくような咽喉の動きが伝わってくる。
「フウのコンピュータの方が、私より攻略しやすいぞ。阿紫花」
「ング……ン」
「奥まで入り込んだ。今みたいに、無理矢理、中にブチ込んで」
言葉で責められるのも興奮するのだろう、口内を犯されながら、それでも己のモノを、阿紫花は扱いている。
被虐趣味でもあるのか。ジョージは淫らがましい阿紫花の姿に、己でも気づかぬ密かな嗜虐の快楽を覚える。
「もっと奥まで咥えろ、いつも下の口でやっているように。ああ、出せ。そんなに扱いて、どうだ?私のモノを咥えて一人で耽る味は」
メチャクチャに咽喉の奥を突きながら、ジョージは囁く。
「イってみせろ、阿紫花」
「……!」
「メチャクチャにされたいんだろう?」
ビクン、と阿紫花の身体が揺れた。
咽頭の奥も揺れ、ジョージは自身を引き抜くために阿紫花の頭を引かせた。
「プアッ、ゲホッ、ゲッ、エッ、……ッ、あ」
勢いよく先端から、阿紫花は与えられていた咽喉奥の刺激に咽ながら放出させた。目を閉じてそこを握り締め、喘ぐように啼いた。
その顔に、ジョージは射精した。
白い液体を口の中や頬にぶちまけられ、それでも阿紫花は恍惚とした表情に見える。目を閉じているせいか。
腕から伸びたコードを、ジョージは端末から引き抜いた。再起動するのは数秒で済む。
瞼に精液がかかって目が開けられないのか、と、ジョージはティッシュで阿紫花の瞼を拭ってやる。
阿紫花は目を開けた。
「服が……」
「ん?」
「メチャクチャでさ」
確かに、ズボンは不自然に皺が寄っているし、シャツやネクタイには精液が滴り落ちている。今もぽたりと汚している。
ジョージはそれを拭ってやった。顔を拭いてやる。
「洗えばいいだろう、……立て」
阿紫花を立たせ、ジョージは座ったまま腰を抱いた。阿紫花の腹の辺りに額が当たる。
「ジョージ」
「?」
阿紫花は身をかがめ、ジョージの唇に吸い付いた。
苦い。
「……」
「プッ、……あんたの味じゃねえか。そんな顔しなさんな……」
阿紫花は笑った。
「あたしの勝ちでさ」
「何?」
阿紫花はにやりと、黒猫が笑うように笑みを作る。
「仕事中の堅物焚き付けてその気にさせる、って、フウのじいさんと、博打をね……」
「何だと!?」
「あんたの好きそうな服まで借りてさ、いや貰ったんでさ。……」
「貴様……!筒抜けか!フウの悪趣味に、私を利用したのか!」
「インセクトで全部見られてんのは分かってんでしょ?今更、……見せ付けてやりゃあいい。あんたとあたし、生きて乳繰りあってンのを、あの生きたまま干からびたじいさんに」
「ふざけるな!……せっかくクラッキングしたのも、無駄か!」
ジョージは怒り出す。「性悪め!お前が一番性悪だ!」
「はは……」
阿紫花はそれでも笑っている。
憎たらしくなってジョージが首を絞めても、笑ったままだ。
机の上に押し倒され、身体のあちこちでばらばらと書類を落としながら、阿紫花は目を細めた。
「ひゃ、くすぐってえ、ジョージさん」
「お前は本当に厄介だ!性悪め、……」
叫び、それでも。
ジョージは押し倒した身体にのしかかる。
「悪戯にゃ仕置きがいンでしょ?……あたしに」
阿紫花の笑みに、ジョージは。
「……性悪め」
フウが着せた衣服を引き剥がし、身を沈めた。
阿紫花は首をのけぞらせ、微笑んだ。
「退屈だけはさせやせんよ。……」
その後。
「仕事は進んだかい?」
帰ってきたギィは、明かりの点いた室内を見回した。
書類がちらかり、それをジョージが片付けている。
「……」
「……」
無言でギィはソファの上を見る。
阿紫花が、肌蹴た衣服のままジョージのコートを掛けて眠っている。
「……大変だね、君も」
「……こんなのはいいさ」
陥落したと思ったコンピュータが、実は屋敷の管理コンピュータだったと分かった時の落胆よりはずっとマシだ。
「あんな空軍並の防壁を、家庭用のコンピュータに使うな!」
ジョージの叫びに、ギィは目を丸くし、
「何があったのか分からないが、……ジョージ」
「何だ!?」
「元気そうで良かったよ」
「それは皮肉か?」
「君が落ち込んでいるのは鬱陶しいんだ。それだけだ。それに僕は哲学者でも犬でもない」
「?」
「シェイクスピアだよ。……おやすみ、ジョージ。阿紫花」
良い夢を、と、ギィは出て行った。
「……フン」
ジョージは鼻を鳴らす。
眠っている阿紫花の額に触れる。
心配を、今日はいろんな人間からかけられた。
「……良い夢を」
珍しく穏やかに、ジョージは呟いた。
END
後書き:
ジョージは書きやすいです。阿紫花よりはずっと。
「すまないが、ジョージ、仕事を頼まれてくれないか」
フウはある日そう言った。
よく晴れた午前の、屋敷の一室である。
「しろがねとしてのフェイスレスが残した痕跡を、いろいろ集めているのだよ。今後のために纏めておきたい。何か役に立つかもしれない。人形にさせてもいいんだが、君の主観も欲しいかと思ってね」
フウは苦笑し、
「君を裏切った男の痕跡を辿らせるのは、正直心苦しいんだがね。Oである君が、一番適任だろうと思う。今いるメンバーの中では、一番ヤツに近かったワケだから。ギィには断られたし、阿紫花には頼めない。彼はしろがねの事など、全然知らないからね」
「……ああ」
にこりともせずにジョージが頷く。「分かった」
「パソコンは使えるね?愚問だったかね。失礼--急ぐ仕事ではない。君の好きにやってくれ」
フウはかすかに微笑み、
「一度、すべて目を通してみてくれたまえ。ジョージ」
そう言った。
暇人と思われた。そういう事なのだろう。
ジョージは長い髪を纏め、椅子に腰を下ろした。
目の前のマホガミーのデスクの上には、ジョージですら一度に運びきれないような紙の束が載っている。すべて報告書だ。インターネットでアングラに流れるニュースから、某大国の衛星から撮影した真夜中のサーカス団の映像まで。
恐ろしく膨大な資料、しかも使用している言語がばらばらだ。なるほど、しろがねや-Oが適任なのは一目で分かった。少なくとも、言語の問題はないのだから。
ジョージに与えられた執務室に置いてあるパソコンは、そのまま屋敷の管理コンピュータの一部に直結しているらしい。端末からのアクセスを、比較的容易に受け入れる設定にしてくれていたようだ。パソコンを立ち上げるとすぐに屋敷の管理コンピュータに接続され、フウ・インダクトリー専用のOS画面が映る。
教えられていたパスワードを入力する。しばらく待った。認証に時間がかかる。
頬杖をついて待っていたが、ふと視界にメガネが映った。フウの私物だろうか。手に取ると、度は入っていないと分かった。眼精疲労や電磁波の防止に使うメガネのようだ。
人形しかいない屋敷の中で、フウしか使うものはいないだろう。だがフウはこの端末は使わない。あくまでゲスト用なのか。つくづく手入れの行き届いた屋敷だ。
ジョージはサングラスを外し、メガネをかけた。別に眼精疲労も電磁波も、しろがね-Oには影響しない。だが使われるのを待っているだけのメガネだ。使ってやろうという気になった。
レンズ越しの視界でパソコンの液晶を眺めた時、薄く開けたままのドアの近くに人間が見えた。
阿紫花だ。珍しくベストを着ている。それに服の仕立てが違う。コートの袖をまくるような着こなしをする彼にしては、随分と品がいい。
室内にジョージの姿を認め、阿紫花は猫が隙間から入ってくるようにするりと入ってきた。
「ジョージさん、何してんでさ」
「見ての通りだ。邪魔するな。……」
「まだ何もしてねえじゃねえか」
阿紫花は口を尖らせて近づいてくる。
「えーと……『アフリカ・サハラ西域で確認された大型銃火器を装備した未確認の人型兵器に関する報告書』……」
比較的流暢な英語で口にしてから、阿紫花は「ダメだ、意味が分からねえ」と言った。
「だから邪魔するな」
「でもこれ、アンタの前の親分でやしょ」
阿紫花は手近にあった一枚を掲げる。フェイスレスの顔の衛星写真だ。
「コレ関係?」
「……ああ。フウに頼まれた」
ジョージの言葉に阿紫花は鼻を鳴らし、
「アンタ昨日今日までへこんでたじゃねえですか。なんでフウのじいさんに言われたからって、素直にやりますかねえ。断りゃいいじゃねえかよ。ホントはイヤだ、って顔に書いてまさあね、ジョージ」
「……別に」
「……アンタ、結構人からイヤな仕事押し付けられるタイプでしょ。断る理由探すタイプさ。そんなの一言『イヤだ』って蹴っちまえばいいのに……」
「お人好しでやすねえ」と言いながら阿紫花はタバコに火をつける。灰皿がない。窓辺にあった蘭の鉢植えの水皿に灰を落とした。
「邪魔はしやせんよ、見てるだけ。……へへ……」
「なんだ」
「メガネ、似合うじゃねえですか」
ニヤニヤと阿紫花は笑っている。
ジョージは一瞬目をやり、すぐにパソコンに戻した。
それからしばらくは、二人とも無言だった。
阿紫花はタバコを吸いながらソファに寝転がっている。ドレープのレースのカーテンが添えられた大窓からは青空しか見えないだろうに、飽きもせず見上げている。
阿紫花が静かなおかげで、ジョージは仕事に集中出来た。
ひたすら分類と分析を繰り返す作業だ。どちらかと言えば楽だが、--時折、傷口を抉られるような気分がした。
-Oのデータ。
各個体の改良手術の記録。
まるで、「より強い者を作る実験」のように、段階を追って。
--私はとっくに旧式、か。
ジョージは小さく嘆息する。
分かっていたつもりでも、情報の束を見せ付けられると、苦しい。
だが仕方がない。仕方が、ないのだ。もう戻れない。
(……しろがねになった時から、それは同じか)
いやもっと前?もっと、ゾナハ病に罹患する前?
(……感傷など)
今更必要ない。
詳細なデータの閲覧と入力を繰り返す内に、どうも深い場所まで潜り込んでしまったらしい。「アクセス権限のない領域です」という警告が現れる。屋敷のコンピュータ経由でフウ・インダクトリーの巨大コンピュータの深部にアタックしたらしい。
特定のポイントからの巨大コンピュータへの不正な外部アクセスの痕跡を辿っていたのだが、自分も深く入り込みすぎたらしい。
やっている事がクラッカーと変わらなくなる前に引き返すべきか?……やっと面白くなってきたのに、とジョージは心の中で呟く。
アクセスポイントを増やして地球を三周くらいしてアクセスするか。それとも一度どこかの軍を経由するか。何でもいいが、使っている端末では耐えられる気がしない。単純にアタックをかけて解読すればいいという話なのだが……。
フウのコンピュータだから、フウに言えばきっと暗号など解読せずともアクセスコードを教えてくれるだろう。しかし。
(確かに、私は理由を探すタイプだな)
「アンタ、結構人からイヤな仕事押し付けられるタイプでしょ」と言った阿紫花の言葉を思い出す。
これだって別に強制ではなかった。頼まれたからやっているだけだ。不愉快でも、苦痛でも、断る理由がなかったからだ。
だがそれも、退屈な話だ。
(……フン、フウめ。後で慌てるだろうか)
内部--つまりジョージからの不正アクセスの痕跡が見つかったら、仕事を頼んでいたフウは慌てるだろうか?
痕跡など残さない自信はある。だが少しだけ、残してやるのがいいのだ。気づけばいい。ささやかな悪戯だ。
立ち上がり長い上着を脱ぎ始めたジョージに、阿紫花は首をめぐらせた。
「ジョージさん、なんで脱いでるんで?」
脱いだコートを適当に椅子の背に掛け、ジョージは左腕の袖を肩口近くまで捲り上げる。
白い筋肉質な腕が見え、阿紫花が立ち上がり近づいてくる。
それに見向きもせず、ジョージは二の腕の内側から、何かを引き出した。黒いコードだ。
ジョージはコードの先端に何か嵌め込み、それをハードディスクの隅に接続した。
「何を……」
後ろからそれを覗き込み、阿紫花は言った。「何すんでさ」
画面の上では暗号解読のためのバイナリエディタがさかんに動き回っている。
「……フウへの、悪戯だ」
「悪戯ァ?」
「確かに、いささか不快になったからな。……」
「……で、何すンでさ」
「解読して、入り込んで、フルコントロール権限を借りる」
「……で、何すンでさ」
「何も。見たいデータを見て、出て行くだけだ。入り込んだ痕跡を誰かが見つけて騒ぐだけ。見つかればの話だが」
「……それが、悪戯?」
「ああ。無意味だろう?悪戯だからな」
「……小難しい意趣返しでやすねえ」
「下らないだけだ。こんなもの。だから悪戯だと言っているだろう」
ふと気づいたように、ジョージは腕で足を持ち上げ姿勢を正した。
「私の身体の両足とボラの制御システムを、一時的に停止させた。停止したシステム分の容量と機能を、この端末の補助に使っている。この端末ではいささかパワー不足だからな」
ジョージはドアに目をやり、
「忘れていた。接続している間は、足が動かせない。閉めてきてくれ。見つかると、コトだ」
と言った。そのまま画面に集中する。
だが。
「……おい」
「へえ」
「どうして机の下に入り込む」
阿紫花が、机の下のジョージの足元に跪いている。
大きなデスクだから、余裕はあるだろうが窮屈に変わりはない。
「何を考えて……」
「あたしも、悪戯してえ気分なんでさ。足、動かねえだけでしょ?」
阿紫花が、ジョージのズボンのファスナーに手をかける。
ジョージは慌てた。
「ドアが開いている。見つかったら--」
「でえじょうぶでさ。ここは角部屋で人通りなんかほとんどねえ。それに見っかったってメイド人形だ。お人形さんに見られたって、なんてこたねえよ」
幸い、デスクは完全に箱のような形をしているから、廊下からは見えない。
しかしそれでも、誰か来たらどうするのだ。
「今更……大した事かい?あたしが思うにね、フウのじいさんはもっとえげつねえ場面だって見た事あるお人でさ」
「……」
「しろがねったって、ついてるモンは人間と一緒なんですもんねえ。……案外、見て楽しんでるかも知れやせんぜ。……」
言いながら、口に咥えたファスナーを下ろしていく。
ズボンの前を開け、下着をずらし、それを取り出す。
阿紫花の舌が先端に触れた、
「阿紫花っ……」
「なんでさ?悪戯、そっちはそっちで続けなせえよ。……」
画面が目まぐるしく切り替わる。すばやくやらなければ、気づかれて炎の壁で焼かれるだろう。
「……いいか、こんな事しても私は……出さないからな」
「へえへえ。耐えられっか、勝負といきやしょ」
柔らかい口内に先端が含まれ、ジョージは息を呑む。
「口に、入り切んね……や。まだ勃ってねえってのに……」
舌で溝を掘りながら、阿紫花は言う。
「ホント、こんなの……よく入ると、思いやすよ……。昨日も散々、……コレで、あたしの中、」
しゃぶるように、先端を口に含んでは出す。
「掻き回して……、ココ、当たンでさ……。イイとこ、抉るみてえに……。は……、たまんねえ……」
情景を思い起こさせるように、阿紫花は卑猥な言葉を吐く。
視線をパソコンの画面に集中させ、ジョージは耐える。
解読が終わり、一番外壁である暗号は解読できたようだ。
すぐにその奥の暗号を解読し始めなくてはいけない。
どの方法で暗号化しているのだろう?どの方法で解読できるだろう?――思考は纏まらないが、ジョージはキーを押した。こんな事になった以上、直接な方法で構わない。見つかる可能性は高いが確実な方法を取る。
「……耐えてんで?」
阿紫花の声がした。
勃ちが悪い。
「言っただろう。出さない」
「……そう言われっと、何でもしたくなンのが人情ってか……」
「無駄だ。私は-Oだぞ?」
阿紫花もいい加減聞き飽きたであろう科白を、ジョージが吐いた時だった。
「ジョージ。進んでるかい?」
ギィだ。外出用のコートを羽織っているから、出かけるのか、帰ってきたのか。
「ギィ!?」
「何を驚いているんだ?今さっき、フウに言われてね。追加だ。最新の報告だそうだ。紙じゃなくてUSBで持ってきた。良かっただろ?」
ジョージは腕まくりを元に戻した。コードには気づかれていない。
「……ああ」
ギィは机の向こうに立って資料を眺め、
「結構な量だな。それでも三割以上処理したのかい?君は案外、仕事が早いな」
「……それほどでも。……っ」
急に強く吸われ、ジョージは目を見開く。
音が出ないのが不思議なくらい、深く激しく吸われている。
「? どうした」
「いや、……今日の予定は?」
ギィはコートの衿を正し、
「僕はこの後、街へ出て、ちょっとね。ああ、阿紫花を見なかったかい?」
机の下で私のアレを吸っている--とは、言えない。
「いや……何か、したのか?」
「フウが以前に青年の執事人形を作ったそうなんだ。まあ、すぐに飽きてやめたそうなんだが、その時に着せた服が残っていた。阿紫花があまりにも安っぽい格好をしているからね。たまりかねたフウが、その服を着せてみた」
それであの服か。道理で英国風の仕立てになっていると思った。
ギィは顎に手をやり、
「人形なんて、大概やりすぎな程に均整を取って作っているのにな。袖丈とパンツの丈を直したくらいで、後はぴったりだった。フウが手を叩いて面白がってね。まるでペットに服を着せる飼い主さ」
「……フン」
「彼は鳴海も気に入ったらしいが、全然違う扱いだな。細身で黒髪の日本人形が、フウはいたく気に入ったらしい。阿紫花にはもったいないほど身奇麗にしたのはいいが、フウが着せ替えのように着替えばかりさせるから、阿紫花が逃げてしまった」
それでこんな屋敷の隅に、阿紫花はやって来たのか。
下半身への刺激に必死に耐えながらも、ジョージは納得する。
「どうも我々しろがねは、銀髪以外を見ると弄りたくようだね。そう思わないか、ジョージ」
ギィめ、本当は気づいているのではないか?--余裕を失いつつあるジョージはそんな勘繰りをする。
この綺麗なしろがねは、一癖も二癖もある男なのだ。
当のギィは笑って、
「なんてね。同じ黒髪でも、鳴海なんか何を着せても似合わないがね。いやあ、君にも見せたかったなあ。阿紫花が、メイド人形の服を……」
「着たのか!?」
「……着せられそうになって、目を丸くしていたよ。カワイイ顔になるものだね。それで『悪ふざけはツラだけにしてくんな、フウさん』って逃げ出してね」
ギィは口真似をする。似ていない。
「……バカだ……阿紫花もフウも」
「フウも悪ふざけが過ぎたと反省しているよ。阿紫花に謝りたいそうだ。それで今、メイド人形が屋敷中を探している。あの中国のお嬢さんも手伝ってくれているんだが、--ここにはまだ誰も来なかったみたいだな」
「あ、ああ……」
ジョージはパソコンに注視する振りをする。クラッキング中だとバレてはいないが、それにしても間が悪い。阿紫花め。
「……」
ギィは顎に触れていた指を曲げ、少し首をかしげた。
何か気づいたのか?
ギィはにっこりも微笑んだ。
「ここにはいないようだ。僕はロンドンへ出てくるから、帰りは遅くなるよ。ゆっくり『仕事』にいそしみたまえ」
「……ああ」
「ああ、今日は暖かいなあ!ドアを開けて行ってやるよ。いやあ、僕は本当に気が利く男だな」
そんな事を言って、ドアを全開にしてギィは出て行った。
「……性悪め」
「なんでさ?ジョージさん。今更説教?」
勃起した性器の先端を口に含み、阿紫花は上目遣いをする。
「へへ……勃ちやした」
「……」
全開のドアの向こうで、時折メイド人形が顔を覗かせる。室内にジョージしかいない事を感知すると、すぐにどこかへ消える。熱感知は使っていないようだが、本気で探し回っているものでもないのだろう。家事の片手間に探しているだけらしい。寝具や家具、書類を運びながらジョージの顔を覗いていくメイドばかりだ。
「……イヤにモノを運ぶメイドが多いな」
「ああ、ここは角部屋だけど、向かいが管理室なんでさ」
「……」
「モニタールームは別にあンだが、もっと大本のコンピュータの管理室はここの向かいなんだとかなんだとか……。ちなみにそん隣は物品管理室だとかって。消耗品とか」
日用品を運ぶメイドが多かったのはそのせいか。
「お前、さっき『ここは人通りが少ない』と……」
「あいつら人形だ。人じゃねえ」
むしゃぶりつきながら、阿紫花は言う。
「人形なんかにゃ勿体ねえ……あたしのモンでさ。……」
言いながら、阿紫花はベルトを外した。ズボンの前を寛げ、中に手をやる。「あたしも、勃ってら……」
せっかくフウの揃えた上等なシャツもベストもズボンも、皺がよっている。阿紫花の、前を寛げて自らを扱き上げる動作に負け、ぐしゃぐしゃだ。
「あ、あたし……なんで感じてンですかね……アンタなんかのしゃぶって、テメエの竿しごいて……」
「……」
「せっかく……マシなスーツ着てんのに気づかねえ朴念仁なんかの……しゃぶって……興奮しまくって、……」
舌の動きが早くなる。
足が動けば腰を引きたくなるような快楽に、ジョージは息を呑む。
いっそPC端末との接続を絶って、足とボラの制御を復活させるか。あそして阿紫花を止める。だがそれでは解読が進まない。物事を途中で辞めるのは、性に合わない。
画面の中では、解読が進み続けている。コードを要求する画面に、機械的に入力した。上半身の制御システムは切っていない。だがもし普通の人間なら、下半身の熱に気を取られて、手が震えてしまうだろう。
もう少しだ。もう少しで、辿り着く。
HDDがフル稼働する音に混ざり、阿紫花の熱く潤んだ声が足元から聞こえる。
「そっち、進んでやす?……こっちも……イイ感じ……」
「……っ」
「ハ……、あたしも……ビンビンなってンでさ……ジョージ……。しゃぶらせるだけ、って……そりゃ……あんた、恨みやすよ……」
自ら扱き上げる、その動作が早くなっている。
「欲しく、なってンのに……」
潤んだ瞳と目が合う。
その瞬間--。
「ジョージ、何してるの?」
ミンシアの声がした。
「阿紫花見なかった?なんかフウさんが探してたわよ」
「し--知るか!」
ジョージは思わず怒鳴っていた。悪気はない。だが焦りが頂点まで達しつつある。
ミンシアはさすがに男所帯で育っただけあって、怒鳴り声などには怯まない。首をかしげ、
「やだ、何怒ってるの?顔赤いわよ、珍しい。……熱でもあるの?」
と、心配して見せた。
ジョージは目をそらす。バツが悪い。今だって下半身を阿紫花に弄られ続けている。もしこのうら若き美少女にそれがバレたら、周囲からどんな謗りを受けるか……考えるだに恐ろしい。
「……熱など。……すまない。怒鳴って……」
「……やっぱ変ねえ、ジョージ。なんか気弱ねえ。……何かあったの?何してるの、こんなにたくさんの書類……」
「フェイスレスの、洗い直しだ」
「まあ……」
ミンシアは机の横に回りこんでくる。
ジョージは青ざめたが、ミンシアは気づかない。
「昨日今日で、ジョージ……辛くない?」
辛い。非常に。ミンシアの、純粋に心配する美しい黒曜石のような瞳を見返す事が出来ない。
「ジョージ、無理しないでね」
ひたりと、清らかな冷たい手が額に触れた。
「一人で、無理しないで」
ぞく、と下半身の血が動いた気がした。
ミンシアは微笑んだ。
「熱はないみたいね」
「……大丈夫だ。……悪いが、一人にしてくれ」
気を悪くした様子もなく、ミンシアは頷き、机から離れる。
出て行こうとするミンシアの背中に、ジョージは声を掛けた。
「ミンシア。--ありがとう」
「……」
「心配してくれて……」
消え入りそうな声だったが、ジョージは確かにそう言った。
ミンシアは微笑み、
「やっぱり変よ、ジョージ。でも、どういたしまして。ここのドア開いてたかしら?閉めていくわよ?」
ドアを閉じ、出て行った。
気は強いが、悪い娘ではない。むしろ周囲に気を遣う性質の娘だ。話しているとすぐにそれは分かる。
だからこそ、罪悪感に苛まれる。
「阿紫花……」
ジョージはメガネを外し、放るように机の上に置いた。
左手の親指で眉間を押す。
「……お前の負けだ」
「……まだ、終わってねえ」
「メインコンピュータの奥に入り込んだ。……完全にフルコントロール出来る。私の勝ちだ」
一度進入すれば、後は容易い。数時間おきに暗号を換えてしまうシステムだから、再度進入するのは手間がかかる。しかし一度到達出来たのなら、二度目は近道が分かる。
阿紫花の髪を掴み、咽喉奥に先端を押し込むように動かした。
「……っ」
えずくような咽喉の動きが伝わってくる。
「フウのコンピュータの方が、私より攻略しやすいぞ。阿紫花」
「ング……ン」
「奥まで入り込んだ。今みたいに、無理矢理、中にブチ込んで」
言葉で責められるのも興奮するのだろう、口内を犯されながら、それでも己のモノを、阿紫花は扱いている。
被虐趣味でもあるのか。ジョージは淫らがましい阿紫花の姿に、己でも気づかぬ密かな嗜虐の快楽を覚える。
「もっと奥まで咥えろ、いつも下の口でやっているように。ああ、出せ。そんなに扱いて、どうだ?私のモノを咥えて一人で耽る味は」
メチャクチャに咽喉の奥を突きながら、ジョージは囁く。
「イってみせろ、阿紫花」
「……!」
「メチャクチャにされたいんだろう?」
ビクン、と阿紫花の身体が揺れた。
咽頭の奥も揺れ、ジョージは自身を引き抜くために阿紫花の頭を引かせた。
「プアッ、ゲホッ、ゲッ、エッ、……ッ、あ」
勢いよく先端から、阿紫花は与えられていた咽喉奥の刺激に咽ながら放出させた。目を閉じてそこを握り締め、喘ぐように啼いた。
その顔に、ジョージは射精した。
白い液体を口の中や頬にぶちまけられ、それでも阿紫花は恍惚とした表情に見える。目を閉じているせいか。
腕から伸びたコードを、ジョージは端末から引き抜いた。再起動するのは数秒で済む。
瞼に精液がかかって目が開けられないのか、と、ジョージはティッシュで阿紫花の瞼を拭ってやる。
阿紫花は目を開けた。
「服が……」
「ん?」
「メチャクチャでさ」
確かに、ズボンは不自然に皺が寄っているし、シャツやネクタイには精液が滴り落ちている。今もぽたりと汚している。
ジョージはそれを拭ってやった。顔を拭いてやる。
「洗えばいいだろう、……立て」
阿紫花を立たせ、ジョージは座ったまま腰を抱いた。阿紫花の腹の辺りに額が当たる。
「ジョージ」
「?」
阿紫花は身をかがめ、ジョージの唇に吸い付いた。
苦い。
「……」
「プッ、……あんたの味じゃねえか。そんな顔しなさんな……」
阿紫花は笑った。
「あたしの勝ちでさ」
「何?」
阿紫花はにやりと、黒猫が笑うように笑みを作る。
「仕事中の堅物焚き付けてその気にさせる、って、フウのじいさんと、博打をね……」
「何だと!?」
「あんたの好きそうな服まで借りてさ、いや貰ったんでさ。……」
「貴様……!筒抜けか!フウの悪趣味に、私を利用したのか!」
「インセクトで全部見られてんのは分かってんでしょ?今更、……見せ付けてやりゃあいい。あんたとあたし、生きて乳繰りあってンのを、あの生きたまま干からびたじいさんに」
「ふざけるな!……せっかくクラッキングしたのも、無駄か!」
ジョージは怒り出す。「性悪め!お前が一番性悪だ!」
「はは……」
阿紫花はそれでも笑っている。
憎たらしくなってジョージが首を絞めても、笑ったままだ。
机の上に押し倒され、身体のあちこちでばらばらと書類を落としながら、阿紫花は目を細めた。
「ひゃ、くすぐってえ、ジョージさん」
「お前は本当に厄介だ!性悪め、……」
叫び、それでも。
ジョージは押し倒した身体にのしかかる。
「悪戯にゃ仕置きがいンでしょ?……あたしに」
阿紫花の笑みに、ジョージは。
「……性悪め」
フウが着せた衣服を引き剥がし、身を沈めた。
阿紫花は首をのけぞらせ、微笑んだ。
「退屈だけはさせやせんよ。……」
その後。
「仕事は進んだかい?」
帰ってきたギィは、明かりの点いた室内を見回した。
書類がちらかり、それをジョージが片付けている。
「……」
「……」
無言でギィはソファの上を見る。
阿紫花が、肌蹴た衣服のままジョージのコートを掛けて眠っている。
「……大変だね、君も」
「……こんなのはいいさ」
陥落したと思ったコンピュータが、実は屋敷の管理コンピュータだったと分かった時の落胆よりはずっとマシだ。
「あんな空軍並の防壁を、家庭用のコンピュータに使うな!」
ジョージの叫びに、ギィは目を丸くし、
「何があったのか分からないが、……ジョージ」
「何だ!?」
「元気そうで良かったよ」
「それは皮肉か?」
「君が落ち込んでいるのは鬱陶しいんだ。それだけだ。それに僕は哲学者でも犬でもない」
「?」
「シェイクスピアだよ。……おやすみ、ジョージ。阿紫花」
良い夢を、と、ギィは出て行った。
「……フン」
ジョージは鼻を鳴らす。
眠っている阿紫花の額に触れる。
心配を、今日はいろんな人間からかけられた。
「……良い夢を」
珍しく穏やかに、ジョージは呟いた。
END
後書き:
ジョージは書きやすいです。阿紫花よりはずっと。
イリノリ後のヴィルマと阿紫花。ジョ阿紫前提。
二人は出来ていたんだろうか……。でもなんかそういう空気がしないから分からない。二人の別れの場面より、ジョージに対する阿紫花の態度の方がそれっぽい……。腐女子EYEですか。知ってる。
二人は出来ていたんだろうか……。でもなんかそういう空気がしないから分からない。二人の別れの場面より、ジョージに対する阿紫花の態度の方がそれっぽい……。腐女子EYEですか。知ってる。
病室にて
「九死に一生を得るたあ、あたしも随分と悪運が強いもんだと、まあ自分でも呆れまさあね」
阿紫花は苦笑してタバコに火をつけようとする。
ヴィルマはすかさずライターを差し出して火をつけてやった。
腸まで千切れた重傷人で、今も機械に繋がれた阿紫花はニヤリと笑う。
「あンがとさん。……」
男の癖に嫌に線が細い。造作そのものは三十路を越したチンピラそのものだ。痩せた肩も骨ばっているばかりで、肉が無い。不健康だ。
だがどこか、そう、サドの気があるヴィルマはつい、「泣いたらどんな顔すンのかね」と薄笑いしてしまう。
「気をつけなよ、アンタ」
ヴィルマはそんな下心に似た薄笑いを消し、「助かっただけでも、めっけもんさ」
「……そうでしょうねえ」
ジョージが死んだ。「そうなんでしょうねえ」
ヴィルマも分かっている。明日は自分かも知れない。
今でこそ施設の中は平穏そのものだ。一時的に皆休養する余裕がある。皆がその安寧を貪っている。希望を抱いている。だが希望とやらには犠牲が必要だと、黒い手をしたヴィルマや阿紫花、それにギィや鳴海は気づいている。
その予感は、殺しをしてきた人間にしか分からない。
明日は自分。死ぬ気はない。だが誰かが犠牲になるなら--もうサーカスの仲間や子ども達は死なせられない。
「なあんも、残してくれやしねえ」
ぽつりと、阿紫花が呟いた。「別れ際にすがって泣く女も可愛いもんだと思ってましたけど--ケッ、みっともねえやねえ。いざ居なくなっちまうと、あっけなくて泣けもしねえでやんの……」
あたしゃバカですねえ、と、阿紫花は呟いて灰皿に灰を落とした。
「やっぱ淋しくなるんでしょうかねえ。これから」
これから誰が死んで淋しくなるのか、今はまだ分からない。「……花道作って待ってて貰えねえかねえ、神様ってお人が、もしいるんならよ」
「ハナミチ?どういう意味のジャパニーズ?」
ヴィルマは素直に問う。
ハナミチ、という単語でイメージが湧いたのだろう。
「ヴァージンロードみたいなモンかしら」
「ブハッ」
阿紫花は煙を吐き出し、辛そうに眉をしかめる。傷に障った。
「どうしたんだい?何か変なコト言ったかい?」
「ハハッ……こりゃ面白れえ、だったらいいですねえ!ハハ……」
傷を痛がる顔で、阿紫花は一筋涙を見せた。「傑作でさあ」
死んだ人間は帰って来ない。だったら自分が、--会いに行くしかない。だがそれは無意味だと分かっている。
弟を亡くしているヴィルマにも、鏡を見るように見覚えのある痛みだった。昔、自分も同じような顔で泣きながら笑ったはずだ。
だからこそヴィルマは笑った。
「……そうねえ。フフ、アンタ、泣いた顔がカワイイじゃない」
「へえ?」
「長い事オトコには飽きてたんだけど、アンタならイケそうな気がする」
「姐さん、あれかい、女色好きかい」
阿紫花は細い目を少し丸くする。「あたしゃオトコですぜ」
「構やしないよ、スキニーボーイ(痩せっぽち)。それにアンタが二人目さ。いいじゃないのさ。ここで泣いてるくらいなら、アタシのものにおなりよ」
「……」
「アタシも昔そうやって泣いたもんさ。その時はもう死んでもいいような気持ちでさ。……でも結構、アタシもかわいそうなヤツだったんだねえ。こうやって泣いてたんだもんね。アンタ見てると分かるわ。客観できる」
「あたしは可哀そうなんかじゃねえぜ。それに、同情はやめてくんな。余計虚しくなってくらあ」
「そういう強がりが、カワイイって言ってんのよ」
本気の目でひるむ阿紫花に、ヴィルマは歯を見せて笑う。
「アンタみたいな乾いた冷たい男が湿ってんのって、好きなのよ。へこまされちゃって、いい感じによろめいてるトコにつけこむのがたまんなくさ--快感なの。熱くしてやりたい気になるのよ」
「ケッ……」
「乾いて冷たい男」か。どっかの機械仕掛けのしろがねを思い出す。
「湿っぽくなっても、熱くなっちゃおしめえだ。あたしらの生きてる世界じゃ、そうでしょうが。ねえ、姐さん」
「そう?アンタこの先も生きていく気があるの?」
「……」
「あんまり湿っぽいから、死ぬ気じゃないかと思ってさ。……」
ひょい、とヴィルマはりんごを手に取る。それを剥き出す。
剥いた皮が長く伸びる。
「……どうして」
阿紫花は呟いた。「あたしに構うんですかい」
「似てるから。昔のアタシに」
「……」
「弟がゾナハ病で死んで、それでもアタシは殺しをやめられなかった。金になりゃなんでもやった。ナイフがあれば何でも出来た」
タバコを咥えたまま、ヴィルマは器用にリンゴの皮をナイフで剥いていく。いつも研ぎ澄ましてあるナイフだ。よく切れる。
「死んでも構やしなかった。弟が待ってるんだって今でも信じてる。--食べる?」
うさぎの形に切ったリンゴを目の前に差し出され、阿紫花は受け取る。
リンゴの匂い。しろがねの血の匂いだ。
ずっと前にそれを飲んだ。
「でも仲町サーカスに来て、なんかアタシ、変わっちまってねえ」
「……」
「弟がもし生きてたら、……きっとここにいて、あの坊ややしろがねやみんなと、一緒にさ……」
リンゴを噛むと、口の中に匂いが拡がる。
「アタシはナイフ投げて、あの子は的……、口上は仲町で、音楽は三牛、リング裏で勝があの目で、『頑張れ』って、顔してるのが分かる」
「……」
「忘れてた。サーカスがこんなに愉しいものだったって事。サムが死んで、アタシはどっか螺子が飛んでたんだね。歯車が狂ったままだった。でもあの子の、勝の目で、正気に戻っちまった」
ヴィルマは自分でもリンゴを食べた。
「だからさあ、阿紫花--アタシ、あの坊やに殺されちゃった」
「……」
「あの子の目にさ、心臓打ち抜かれちゃった。殺し屋ヴィルマのタマ取ったのよ、あの子は」
さっき「アンタは二人目」と言ったのは、そういう意味か。--阿紫花は合点する。
確かに勝は、そういう力強さを持っている。
「……ああ、分かりやすぜ」
阿紫花は頷いた。「殺し屋、辞めるんですかい」
人殺しは骨の髄まで黒い手をしている。辞められる筈が無い。二人とも分かっているが、阿紫花はあえて問うてみた。
ヴィルマの答えは清清しかった。
「そうよ。殺しは廃業でさ、あの子達とずっと、サーカスをするんだ。だから--あの子達は死なせやしない」
弟のようには、と、ヴィルマは呟く。「今度こそ、アタシはサーカスをやるんだ」
「……いいですねえ」
阿紫花は心からそう言った。「そうなりゃ、あたしも見てみたいもんですぜ。サーカスってヤツを、よ」
「見た事ないの?人形遣いなのに」
「ねえですねえ。こちとらヤクザ者でさ。人形は殺しにしか使った事ねえかなあ……」
「しろがねと同じね」
「……違ェやすよ。全然。あんな綺麗な連中と一緒にされると、なんだか切なくなっちまう」
リンゴの汁のかすかにべたつく自分の指を見下ろす。阿紫花は両手の指を広げ、動かした。ピアノを弾く動作にも、人形繰りの動作にも見える。
(なんでアンタが人形繰りやめたのか、あたしにもちっとは想像つきやすよ。ジョージ。似てたんでさね)
その様子を見ていたヴィルマが急に言う。
「阿紫花。アンタも、行けるよ」
ヴィルマは笑っていた。「サーカス、一緒に楽しもうよ」
「……いいですね。そいつは」
阿紫花も笑う。「あたしも殺し屋廃業ですかねえ」
「……石に布団は、着せられねえんですがねえ……」
ヴィルマの去った部屋の中、阿紫花は呟いた。
「あたしもすぐに、そうなっちまいそうですよ」
リンゴの汁のついた人差し指の先をそっと咥えた。
忘れない匂いだ。
「……仕方ねえや……」
わずかに微笑み、阿紫花はそう呟いた。
END
「九死に一生を得るたあ、あたしも随分と悪運が強いもんだと、まあ自分でも呆れまさあね」
阿紫花は苦笑してタバコに火をつけようとする。
ヴィルマはすかさずライターを差し出して火をつけてやった。
腸まで千切れた重傷人で、今も機械に繋がれた阿紫花はニヤリと笑う。
「あンがとさん。……」
男の癖に嫌に線が細い。造作そのものは三十路を越したチンピラそのものだ。痩せた肩も骨ばっているばかりで、肉が無い。不健康だ。
だがどこか、そう、サドの気があるヴィルマはつい、「泣いたらどんな顔すンのかね」と薄笑いしてしまう。
「気をつけなよ、アンタ」
ヴィルマはそんな下心に似た薄笑いを消し、「助かっただけでも、めっけもんさ」
「……そうでしょうねえ」
ジョージが死んだ。「そうなんでしょうねえ」
ヴィルマも分かっている。明日は自分かも知れない。
今でこそ施設の中は平穏そのものだ。一時的に皆休養する余裕がある。皆がその安寧を貪っている。希望を抱いている。だが希望とやらには犠牲が必要だと、黒い手をしたヴィルマや阿紫花、それにギィや鳴海は気づいている。
その予感は、殺しをしてきた人間にしか分からない。
明日は自分。死ぬ気はない。だが誰かが犠牲になるなら--もうサーカスの仲間や子ども達は死なせられない。
「なあんも、残してくれやしねえ」
ぽつりと、阿紫花が呟いた。「別れ際にすがって泣く女も可愛いもんだと思ってましたけど--ケッ、みっともねえやねえ。いざ居なくなっちまうと、あっけなくて泣けもしねえでやんの……」
あたしゃバカですねえ、と、阿紫花は呟いて灰皿に灰を落とした。
「やっぱ淋しくなるんでしょうかねえ。これから」
これから誰が死んで淋しくなるのか、今はまだ分からない。「……花道作って待ってて貰えねえかねえ、神様ってお人が、もしいるんならよ」
「ハナミチ?どういう意味のジャパニーズ?」
ヴィルマは素直に問う。
ハナミチ、という単語でイメージが湧いたのだろう。
「ヴァージンロードみたいなモンかしら」
「ブハッ」
阿紫花は煙を吐き出し、辛そうに眉をしかめる。傷に障った。
「どうしたんだい?何か変なコト言ったかい?」
「ハハッ……こりゃ面白れえ、だったらいいですねえ!ハハ……」
傷を痛がる顔で、阿紫花は一筋涙を見せた。「傑作でさあ」
死んだ人間は帰って来ない。だったら自分が、--会いに行くしかない。だがそれは無意味だと分かっている。
弟を亡くしているヴィルマにも、鏡を見るように見覚えのある痛みだった。昔、自分も同じような顔で泣きながら笑ったはずだ。
だからこそヴィルマは笑った。
「……そうねえ。フフ、アンタ、泣いた顔がカワイイじゃない」
「へえ?」
「長い事オトコには飽きてたんだけど、アンタならイケそうな気がする」
「姐さん、あれかい、女色好きかい」
阿紫花は細い目を少し丸くする。「あたしゃオトコですぜ」
「構やしないよ、スキニーボーイ(痩せっぽち)。それにアンタが二人目さ。いいじゃないのさ。ここで泣いてるくらいなら、アタシのものにおなりよ」
「……」
「アタシも昔そうやって泣いたもんさ。その時はもう死んでもいいような気持ちでさ。……でも結構、アタシもかわいそうなヤツだったんだねえ。こうやって泣いてたんだもんね。アンタ見てると分かるわ。客観できる」
「あたしは可哀そうなんかじゃねえぜ。それに、同情はやめてくんな。余計虚しくなってくらあ」
「そういう強がりが、カワイイって言ってんのよ」
本気の目でひるむ阿紫花に、ヴィルマは歯を見せて笑う。
「アンタみたいな乾いた冷たい男が湿ってんのって、好きなのよ。へこまされちゃって、いい感じによろめいてるトコにつけこむのがたまんなくさ--快感なの。熱くしてやりたい気になるのよ」
「ケッ……」
「乾いて冷たい男」か。どっかの機械仕掛けのしろがねを思い出す。
「湿っぽくなっても、熱くなっちゃおしめえだ。あたしらの生きてる世界じゃ、そうでしょうが。ねえ、姐さん」
「そう?アンタこの先も生きていく気があるの?」
「……」
「あんまり湿っぽいから、死ぬ気じゃないかと思ってさ。……」
ひょい、とヴィルマはりんごを手に取る。それを剥き出す。
剥いた皮が長く伸びる。
「……どうして」
阿紫花は呟いた。「あたしに構うんですかい」
「似てるから。昔のアタシに」
「……」
「弟がゾナハ病で死んで、それでもアタシは殺しをやめられなかった。金になりゃなんでもやった。ナイフがあれば何でも出来た」
タバコを咥えたまま、ヴィルマは器用にリンゴの皮をナイフで剥いていく。いつも研ぎ澄ましてあるナイフだ。よく切れる。
「死んでも構やしなかった。弟が待ってるんだって今でも信じてる。--食べる?」
うさぎの形に切ったリンゴを目の前に差し出され、阿紫花は受け取る。
リンゴの匂い。しろがねの血の匂いだ。
ずっと前にそれを飲んだ。
「でも仲町サーカスに来て、なんかアタシ、変わっちまってねえ」
「……」
「弟がもし生きてたら、……きっとここにいて、あの坊ややしろがねやみんなと、一緒にさ……」
リンゴを噛むと、口の中に匂いが拡がる。
「アタシはナイフ投げて、あの子は的……、口上は仲町で、音楽は三牛、リング裏で勝があの目で、『頑張れ』って、顔してるのが分かる」
「……」
「忘れてた。サーカスがこんなに愉しいものだったって事。サムが死んで、アタシはどっか螺子が飛んでたんだね。歯車が狂ったままだった。でもあの子の、勝の目で、正気に戻っちまった」
ヴィルマは自分でもリンゴを食べた。
「だからさあ、阿紫花--アタシ、あの坊やに殺されちゃった」
「……」
「あの子の目にさ、心臓打ち抜かれちゃった。殺し屋ヴィルマのタマ取ったのよ、あの子は」
さっき「アンタは二人目」と言ったのは、そういう意味か。--阿紫花は合点する。
確かに勝は、そういう力強さを持っている。
「……ああ、分かりやすぜ」
阿紫花は頷いた。「殺し屋、辞めるんですかい」
人殺しは骨の髄まで黒い手をしている。辞められる筈が無い。二人とも分かっているが、阿紫花はあえて問うてみた。
ヴィルマの答えは清清しかった。
「そうよ。殺しは廃業でさ、あの子達とずっと、サーカスをするんだ。だから--あの子達は死なせやしない」
弟のようには、と、ヴィルマは呟く。「今度こそ、アタシはサーカスをやるんだ」
「……いいですねえ」
阿紫花は心からそう言った。「そうなりゃ、あたしも見てみたいもんですぜ。サーカスってヤツを、よ」
「見た事ないの?人形遣いなのに」
「ねえですねえ。こちとらヤクザ者でさ。人形は殺しにしか使った事ねえかなあ……」
「しろがねと同じね」
「……違ェやすよ。全然。あんな綺麗な連中と一緒にされると、なんだか切なくなっちまう」
リンゴの汁のかすかにべたつく自分の指を見下ろす。阿紫花は両手の指を広げ、動かした。ピアノを弾く動作にも、人形繰りの動作にも見える。
(なんでアンタが人形繰りやめたのか、あたしにもちっとは想像つきやすよ。ジョージ。似てたんでさね)
その様子を見ていたヴィルマが急に言う。
「阿紫花。アンタも、行けるよ」
ヴィルマは笑っていた。「サーカス、一緒に楽しもうよ」
「……いいですね。そいつは」
阿紫花も笑う。「あたしも殺し屋廃業ですかねえ」
「……石に布団は、着せられねえんですがねえ……」
ヴィルマの去った部屋の中、阿紫花は呟いた。
「あたしもすぐに、そうなっちまいそうですよ」
リンゴの汁のついた人差し指の先をそっと咥えた。
忘れない匂いだ。
「……仕方ねえや……」
わずかに微笑み、阿紫花はそう呟いた。
END
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プロフィール
名前:デラ
性別:女性(未婚)
年齢:四捨五入して三十路
備考:体力と免疫力が無い
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