印刷 高速道路 1000円 機械仕掛けの林檎 ハロウィン・ハロウィン! 忍者ブログ
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 ハロウィンネタ。Kさんと衣笠さんとチャットして書きたくなったのでw
 18禁。疲れてちょっとアレなジョージと、えらい目にあう阿紫花。

 ハロウィン・ハロウィン!

 フウの屋敷は俗に言う豪邸であり、近隣はもちろん裕福な家ばかりである。ロンドンでも高級住宅街として名高い地区だ。季節の行事にはそれぞれが凝ったイルミネーションやアウトテリアを設えて、賑々しく、あるいは敬虔な空気で行事を行う。有名人も多く、そういう人間が自宅の屋敷でパーティを行ったりするから、クリスマスやイースターの夜はいっそう賑やかで華やかだ。

 その年、フウはある事を思いついた。
「ハロウィンなんだけどねえ。ちょっとパーティをやろうかと思うんだ」
 朝食の席で急に言い出されて、ギイも阿紫花も目を見交わす。
 二人とも、フウめ、また変な思い付きをして、という目だ。もしここに任務でロシアに行っているジョージがいれば、「何だ、いきなり」と問い返しただろう。
「今年から新たなに希少難病研究機関を作っただろ?」
 難病にもいろいろあるが、症例が少ない難病は、どこの国でも政府からの援助をほとんど受けられない。フウはそういった難病患者の支援病院や研究機関も運営している。
 専門外ではあるが医者であるギイは頷き、
「そういう子たちのためにかい?」
「まあそうだね。病院は……ほら、娯楽が少ない。子どもには酷だろう?普通の子どもはハロウィンを楽しんでいられるのに、ベッドで寝ていなくちゃいけないのだから。中には病気のために孤児となった子もいる。捨てられてしまった子も」
 ギイはよく知っている。頷いてカフェオレを一口飲み、
「僕は構わないよ。ハロウィンの夜は何も予定が無い。阿紫花もだろう?」
「あ~……あんですね、ブリクストンのバーでオッパイパーティを……」
「却下。ジョージに言いつけるぞ。怪しげなトップレスバーに入り浸るくらいなら、子どもたちに人形でも見せてやりたまえ」
 「うへえ」と阿紫花は言うが、素直にOKするのがくすぐったくてバーの話など持ち出したのだろう。ギイに脅しのネタにされれば、OKせざるを得ないから。
「ちょいと柄じゃねえからケツがこそばゆいが、仕方ねえや。やりやしょ。ガキどもに人形操って見せるだけっすよね」
 やれやれと呟いて、阿紫花は承諾した。
「あ?でもジョージさんいねえや。ジョージさんはハロウィンまで……」
「戻ってこないんじゃないか?国境沿いで紛争に巻き込まれたとかで、帰りは11月になるかも知れない。通信が切れているから、何とも言えないが」
 「なぜ僕が君よりジョージの予定を把握しているんだ」とギイは阿紫花を見るが、阿紫花はどこ吹く風、という顔だ。
 フウは肩をすくめ、
「ま、もし間に合ったら、ピアノを弾いてもらおうよ。彼はあれで子どもが好きだからね。きっと断るまいよ」

 そして当日の夜がやって来たのだが。
「ジョージさん、間に合わなかったんでやすねえ」
 フウの屋敷のクローゼットルームで阿紫花は黒い忍者の衣装を着ながら、そう言った。
 鏡の前でタイを結んでいたギイは頷き、
「残念だな。せっかく君の人形に合わせてピアノを弾く事になっていたのに」
 ギイは吸血鬼の衣装だ。似合って仕方が無い。
 阿紫花は顔を隠す口当てを付け、
「通信が回復したし、ドンパチ終わって後は帰るだけってんだ。上等なモンでさ。仕方ねえ」
「マスクは要らないな、阿紫花。子どもが不審がる。ジョージにも用意して置いたのになあ、衣装」
 ちなみにジョージの衣装はバッドマン(ダークナイト版・真っ黒)だ。ギイと阿紫花とフウが選んだにしては、良心的だ。
「ま、これは来年使えばいいさ。機会があったらね」
 着替え終わったギイはクローゼットルームを出る。すると、
「着替え終わったかい?ああ、似合うじゃないか、お二人さん」
 フウは、いつものピエロの衣装で車椅子に座っていた。
 ギイと阿紫花はそれを見下ろし、
「……普段着だろ、それ」
「初めて見た気がしやせんね……」
 不満げな二人に、フウは子どものように頬を膨らませ、
「だってあたしゃ二百年生きてんだよ?大概の服は仮装になりゃしない。ギイ君が着てる吸血鬼の服だって、あたしの若い頃の金持ちの普段着そっくりさ」
「そんな言い逃れはいい。阿紫花、適当な衣装はないか」
 阿紫花はクローゼットを見回し、
「え~と……神父さんは?」
「病院で宗教色の強い衣装はダメだ。神経質な人間もいる」
「骨人間とか、囚人の縦じま衣装は?」
「老人にはちょっとな……虐待だと思われたくない」
「半裸の海賊は老骨にキちまいそうだしなあ、寒さが」
 好き勝手言いまくる中年二人の背後で、フウは杖の柄で掌をパシパシと叩き、
「聞こえてるよ」
「狼男でいいんじゃないかな。暖かいし、これなら着た事ないだろう」
 フウは「やれやれ」と頷いた。

 施設内のパーティとはいえ、なかなか豪勢だった。
 広いロビーに料理やキャンドルを用意してある。医師や看護士も、それぞれハロウィンにちなんだマスクや帽子だ。子どもたちも、ハロウィンの衣装が着られて楽しそうだ。童話のキャラクタや、映画のヒーローに扮して笑顔で走り回っている。一見すると病気なのか分からないほどだが、看護士がじっと見つめているのを見ると、やはり病気なのだという気がした。
 子どもたちの歌の発表が終わり、ギイや阿紫花は医師たちと輪になり、
「確認しよう。僕は症状の軽い動ける子どもたちと一緒に、近隣の連絡済の家を数軒回って戻ってくる。阿紫花は屋外へ出られない子どもたちを監督。施設内の各所に職員や医師が待機しているから、彼らにお菓子を貰いに行く子どもたちを見ていてくれ」
 ギイはテキパキと念のための携帯用の医療器具を用意しながら、携帯電話を取り出した。
「僕への連絡は携帯電話へ。定期的に子どもたちの数や顔を確認しろ。いなくなる事も怖いが、最中に症状が急変するのも問題だ。人の顔色を伺うのは得意だろ、注意してくれたまえ」
「へえへ。怒る気にもならねえや」
 阿紫花は煙草が吸えないのが不満らしい。だがどうにもならないので我慢している。
 ギイはくすりと微笑み、
「イイ子にしてたらお菓子をあげよう、阿紫花」
 そう言って、子どもたち連れて数人の医師とともに出て行った。
 フウと阿紫花はロビーで数人の看護士と待機だ。他の職員は、施設の各所に散って、子どもたちが来るのを待っている。
「イイ子ね……性質が悪ィや、ギイさん」
 阿紫花は肩をすくめ、ミニスカの魔女に扮した若い女性看護士を見て鼻の下を伸ばしていたが、
「……ねえ、ねえ」
「あ?」
 小さな子どもに服を引っ張られ、我に返った。
 見れば、巻き毛の金髪の子どもだ。まだ10歳にならないだろう。
「NINJAって言うんでしょ、おじさん」
「……へえ。忍者でやすよ」
「いいなあ!僕テレビで見たんだ。Teenage Mutant Ninja Turtles!」
「?」
 よく分からないが、金髪の子どもはポーズまで付けて、
「4人でシュレッダーをやっつけるんだ!カッコイイんだよ!」
「……」
 ふと脳裏に、
『勝と人形相撲してよ、俺優勝したんだぜ、兄貴!』
 平馬の顔が浮かぶ。
 阿紫花は微笑んで、
「坊やの言ってるヒーローにゃ、あたしはなれやせんけど……」
 傍らの大きなスーツケースのくぼみに両手で触れた。
 手を引くと、指貫が嵌って糸が伸びている。
 今日は手袋はなしだ。
「ちょいとだけ、楽しんで頂きやしょう」
 ばかっ、とスーツケースが開き、キリキリリ、と糸が鳴いて骨組みが勝手に組みあがっていく。
 スーツケースの上で、大きな人形がゆっくりと、芸人のように頭を下げた。今日は特別カボチャ頭の人形だ。
「お代は見てのお帰りでえ」
 子ども達も職員も驚いて、しかし拍手を送ってくれた。
「オジサン……NINJAじゃなくて、トランスフォーマーだったの?」
 呆気に取られた子どもの顔に、阿紫花は微笑んだ。

 長くなりそうな予感もしつつ、続きはいずれ。ちと体調が。
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