印刷 高速道路 1000円 機械仕掛けの林檎 The half way 2 (カテゴリ:小説 ジョ×阿紫) 忍者ブログ
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 やたら長いですがまだ終わりじゃないです。3で終わり。
 
 BGM:the pretender / foo fighters
 歌詞がジョージぽい?w

The half way 2

 おそらく分かったのだろう。
 目の前の男は、仏でも夜叉でも人形でもないのだと。
 人形遣いなのだと。

 窓の外からは煙るような雨音が聞こえる。
「……そうですかい」
 阿紫花は床に落ちた煙草を足で踏み消し、空いている左手で右手の戒めを解いていく。伊坂はもう顔も上げない。
 阿紫花の顔を見たくないようだ。ニィ、と口元だけで阿紫花が哂う。
「親分さんがそれでいいなら、あたしと羽佐間は下がらせていただきやすよ。よござんすね?そしてこれから先、そちらさんの仕事にゃ関わりやせんぜ。……」
 黒の皮手袋をはめる。爪など傷一つ無いかのような動きで。
 伊坂はそれすら見ない。
「……ああ……」
 ぐったりとした声だった。生気を抜かれた、いや、魂を取られたような有様だ。
 完全に場の力点が逆転している。誰が見ても明らかだ。伊坂の手下どもの中には、「今阿紫花が伊坂に何か命じたら自分たちは言うなりになるだろう」という予感を持っている者さえあった。
 風の無い冬の湖面のような瞳で、阿紫花は立ち上がった。
 ビクリと手下たちが身構える。阿紫花はそれに目もくれず、しゃがみこみ羽佐間の戒めを解いていく。
「羽佐間。でぇじょうぶですか、アンタ」
「あ、兄貴……すいやせんッ!あ、ああ……なんてこった、指が」
「立ちな。ほら、泣きなさんな」
 縋りつこうとする羽佐間を押し留め、阿紫花は羽佐間を抱き起こし立たせた。足がふらついているのは、痛みや傷のせいではないようだ。
 目の前で傷ついた兄貴分の姿に慄いているのだろう。
 羽佐間を支え、阿紫花は事務所のガラス扉へ向かう。手下どもは蜘蛛の子を散らすように脇へ避けた。
「……伊坂の親分さん」 
 阿紫花は、ドアから出て行く途中で歩を止めた。振り向かずに伊坂へ声を掛ける。
「アンタから盗みの仕事頼まれた時、あたしは--殺しじゃねえ事に、ちょっと感謝してましたぜ」
 伊坂が息を呑む。
 阿紫花は振り向かず出て行った。

 繁華街の一角にあるビルを出る。土砂降りの雨だ。
 薄暗い路地へ差し掛かる。薄汚れたゴミバケツや、酔っ払いの吐瀉物が散乱している。背後には輝かしいほど騒がしい通りがある。しかし振り向かない。
 不意に、羽佐間を支えていた阿紫花が崩れ落ちた。
 目を見開き右手の指に触れぬよう左手で握り締める。
「……ぁぁぁああああああッ……」
「兄貴ッ」
「……ク、ソ……チクショウ……ッ」
 それまで耐えていたものが決壊した。痛みが湧き上がって声が止まらない。一度声を出してしまうと、もう耐えられない。
「兄貴ッ!俺のために!」
 羽佐間は真っ青な顔で、阿紫花を支え直した。
「……ッ、さ、すがに、堪ンぜ、羽佐間……。ツマンネェ事言いなさんな……。腹ァ立っただけだ。アンタのためなんかじゃねえよ。医者行く程でもねえ……大した事かい。爪剥がすなんて、どんくれえ、ぶりだ?……なんで、アタシが、日本に戻ってるって、伊坂は知ってやがったんでェ」
「こ、高速です。窓開けてモク吸ってる、兄貴をあいつらの下っ端が見てたとか……」
「……はッ……」
 図らずともジョージは正しかったというワケだ。いや、「テメーも煙草くれえ吸ってみろってんだ……トーヘンボクが……」
「え?」
「なんでもねえ。なんでもねえよ……」
「あ、兄貴ッ」
 羽佐間は必死な顔だ。
「……!」
 縋り付こうとする羽佐間を、阿紫花は思い切り振り払った。
 縋られたくない。縋りたくない。
 手負いの獣のように目を眇めた阿紫花に、羽佐間は一瞬震える。
 阿紫花は我に返る。
「……女のトコ行って、あたしの服一式持って来な。どの女でもいい。雇い主に文句言われちまわあ、こんなナリじゃ……」
「行かないで下さい兄貴!」
 羽佐間は叫んだ。「もういいじゃねえですか!あんだけ稼いだんだ、日本にだって、女も酒もバクチもありまさ!!行かねえで下さい!兄貴!」
 必死な声だ。かわいい弟分のその声に阿紫花は--冷めた。
(そんなモン、飽きちまった)
 人形を繰れる場所はここじゃない。
 羽佐間の言う安らぎは、阿紫花には共感できない。
(あたしは、どうかしてる)
 痛みにブレた脳味噌が、一人で空を見上げる少年を映す。
 たった一人で自分を持て余す、ガキの自分。
(いつだって退屈を殺してェだけだ。でも)
 あの頃の自分は何を考えていただろう?
「タクシー、捕まえてきな」
 痛みが、引いた。いや、消えたわけではない。薄らいだ。
 行かなくては。
「ホテルに戻るぜ。コート、アンタのよこしな。あたしのは血が付き過ぎてる。スーツは女のトコからホテルに届けな。朝までにな」
「兄貴」
「服とタクシーだ。とっとしな。羽佐間」
 阿紫花は立ち上がる。
 土砂降りの雨が、白いコートとスーツについた血を洗い流す。

 部屋に戻り時計を見ると、11時半過ぎだった。
 まさか部屋でジョージが待っている、という事もなくほっとした。鍵を開けるくらいは平気でやるだろうが、そこまで門限に厳しいと馬鹿に見える。
 ホテルに入る時に上に羽織った羽佐間のコートを、阿紫花は脱ぎ捨てた。びしょ濡れだが血は付いていない。
 ハンカチで包んだ手袋の先から、血が滴り落ち続けている。白いコートやスーツは、赤い血の染みが多すぎてそれが模様のように見えるほどだ。
 広い部屋が腹立たしかった。足早に遠いバスルームへ向かう。装飾的な蛇口をひねり、湯ではなく水を張る。
 血まみれの服を、すべて脱いだ。下着も靴下も、エナメル靴も、すべて水の張った浴槽に乱暴に放り込む。血だけでも流さなくては、クリーニングにも出せない。
 水しぶきが上がるように激しく、叩きつけるように手袋を放り込むと、自分が息を乱している事が分かった。鼓動も速い。
 血はずっと流れ続けている。
 今更気が高ぶってくる。爪を剥がされている最中はあれほど静かだった神経が、今では全身で反乱する。
「……!」
 シャワーのコックをひねり、水を被った。背筋が凍るほどに冷たく感じたが、爪の剥がされた指先だけは熱かった。燃えるような熱が、ぽたぽたと赤く流れ出す。
 うなだれたまま、水を浴び続けた。
 下らない。そう思った。
(爪剥がされて、羽佐間捨てて、それでも退屈殺しに行く?あたしはどこまで下らねェ人間だよ)
 痛ェ、と、声に出さず呟いた。
 弱味は誰にも見せられない。性分だ。ガキの頃から一人ぼっち。羽佐間にさえ泣き言は言わない。羽佐間は自分を兄貴だと立ててくれるし、手下に泣き言など言った日には、人形のように首を挿げ替えられかねない。
 「人形のように」。--人形からはどこまでも逃げられない。
 自分に残されているのは、人形だけだ。
 無性に糸を繰りたくなった。だが両手を持ち上げると、右手の中三本爪が剥がれている。
 人形を繰り続けるために負った傷。だが人形はやはり普段のようには繰れないだろう。そう思い至り、涙を出したくなった。だが出ない。
 だから代わりに、哂った。
「涙も出ねェでやんの……」
 一人になっても泣けないもンだな。分かり切っている、と目を閉じた。膝から力が抜ける。ずるずると膝を突いた。
 何もかも、どうでもよくなった。
 血は流れ続けている。

 --ふと、違和感を感じた。
 阿紫花は顔を上げる。どれだけ冷たい水を浴びていたのだろう?浴槽からは水が溢れ出して、タイルについた膝や足の甲を浸している。何分、何十分そうしていたのだろう。
 下着や靴下といった薄手の衣服が、増した水と共に浴槽から流れ落ちそうになっている。阿紫花は浮かんでいた皮手袋を掴み、手にはめる。指は痛んだが、性分だ。手袋がないと落ちつかない。
 浴槽に沈んだコートから、リヴォルヴァーを取り出す。
 撃鉄を起こし、そっと、立ち上がった。
 水を溢れさせたまま、バスルームの扉を開けた。洗面室には誰もいない。バスローブを羽織り、寝室へ続くドアをそっと開けた。
 ベッドの上に、誰かが腰を下ろしている。
「……ジョージさン」
「12時23分」
 ジョージは言った。「お前に銃を突きつけられるのは二回目だ」
「……」
 阿紫花は銃を下ろした。「ちゃんと戻ってきやしたよ」
 何をしに来た--とは思うが、言えない。何かためらわれる。
 銃を、脇の棚の上に置いた。
 出て行ってほしい。
「あたしゃもう寝ますよ。ちっと遊びが過ぎて疲れて--」
「血の臭いがする」
 そう言って、ジョージは立ち上がった。
 近づき、右手を掴んだ。
「これがお前の『遊び』か?」
 サングラスのせいで目の色が見えない。だが軽蔑の響きを、阿紫花は感じ取る。
 ぽたりと水を含んだ血がジョージの手を汚した。
「こんな指では人形は扱えない。本気で、明日ついてくるつもりだったのか?こんな役に立たぬ指で」
 カチリ。阿紫花の左手が、いつのまにか再び銃を持っている。撃鉄を起こしジョージの心臓を狙う。
「爪剥がしてたって人形は繰れまさァ……。舐めねえでくんな」
「……」
 無言で。
 ジョージは阿紫花の傷ついた右手を握り締めた。
「……!」
「足手まといは要らんという事だよ、アシハナ」
「ア……ガ……ッ」
 痛みで目がくらむ。阿紫花は銃を取り落とす。どうせ役に立たない。
 だが。
「コノ……ッ、バカ野郎ッ……!!」
 左手で、ジョージの頬を殴った。「クソ人形ッ……」
 怒りがこみ上げ、目の前が暗い。
 いつもなら眩しいほどの銀髪も、見えないほど視界が暗かった。
「お前は厄介事ばかりだ。アシハナ」
 殴られたジョージは痛がりもしない。「爪を剥がされても動じなかったお前が、これしきで喚くな」
「……なんで知ってやがる。……アンテナ(発信機)付けやがったな!」
「GPS端末に盗聴器もな。車の中で寝るからだ」
「……あン時か」
 ぬるい空気の中で目覚めた時、ジョージの手がイヤに近かったのを思い出す。「……雇い主なら、もちっと信用したらどうなんだい」
「人形は手に入った。我々が欲しいのは、人形だ。……繰り手ならしろがねがするだろう」
「……なにを……」
「お前は必要ないという事だよ、アシハナ。人間の人形遣いなど、この戦いでは不要だ」
「……」
「お前は置いていく」
 ガチッ、と音がした。
 怒りのあまり、阿紫花は自分の舌先を歯で噛み破っていた。
「~ふざけんなッ!!」
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